ちょっとしたトリビアですが、ソウマトウ先生のオリジナル作品で長期連載された「黒」「ギリギリアウト」「シャドーハウス」の中でサブタイトルを先生が考案していたのは「黒」のみとなっています。
例えば「黒」最後のエピソードとなった3巻の「はなしの話」は、ソウマトウ先生の好きなユーリ・ノルシュテインの「話の話」という作品から名付けられました。
しかしソウマトウ先生によれば、そんな風にこだわり抜いてサブタイトルを考えていると時間がとられることから、「ギリギリアウト」と「シャドーハウス」は担当者の方がサブタイトルを付けているそうです。
とはいえ、どのサブタイトルを見てもクオリティの高いものばかりです。エピソードを読み終わって『ああ、あのタイトルにはあんな意味があったのか!』と気付いたのは一度や二度ではありません。
私がシャドーハウスで特に好きなのは「第42話 解」「第43話 最後の一対」「第56話 破鏡不照」「第91話 ケイト」ですね。
いずれもエピソードの内容と密接に関連しているだけではなく、最後まで読んで初めて意味が分かるようになっています。「意味が分かると怖い話」ではなく「意味が分かると凄いタイトル」です。
それどころか、暫く物語が進んでから新しい意味を見出せるタイトルもしばしばあります。
「第56話 破鏡不照」なんかはその典型で、あとから読み返すと確かに、あの時のキャラクター達の行動は後戻りのできない選択の連続でした。凄いです。
ここまで凝ったサブタイトルを見ていると、担当者の方のシャドーハウスへの愛が感じられますね。やはり作品を読み込み、大切に想っているからこそのクオリティでしょう。
シャドーハウスのサブタイトルは、作品の魅力の一つと言っても過言ではありません。私は毎回楽しみにしていますし、最新話公開時に真っ先に目を通すという方は結構多いのではないでしょうか?
ところが、今回のお話を本誌で読むとサブタイトルがどこにもありません。扉にも書かれておらず、第82話の時のようにページをめくっても出てこないのです。不可解です。
しかし、それはその筈です。
なぜなら今回のサブタイトルは、予想を覆すタイミングで登場したからです。
それを見た私は、ケイトが受けたであろう衝撃を追体験していました。
例えば「黒」最後のエピソードとなった3巻の「はなしの話」は、ソウマトウ先生の好きなユーリ・ノルシュテインの「話の話」という作品から名付けられました。
しかしソウマトウ先生によれば、そんな風にこだわり抜いてサブタイトルを考えていると時間がとられることから、「ギリギリアウト」と「シャドーハウス」は担当者の方がサブタイトルを付けているそうです。
とはいえ、どのサブタイトルを見てもクオリティの高いものばかりです。エピソードを読み終わって『ああ、あのタイトルにはあんな意味があったのか!』と気付いたのは一度や二度ではありません。
私がシャドーハウスで特に好きなのは「第42話 解」「第43話 最後の一対」「第56話 破鏡不照」「第91話 ケイト」ですね。
いずれもエピソードの内容と密接に関連しているだけではなく、最後まで読んで初めて意味が分かるようになっています。「意味が分かると怖い話」ではなく「意味が分かると凄いタイトル」です。
それどころか、暫く物語が進んでから新しい意味を見出せるタイトルもしばしばあります。
「第56話 破鏡不照」なんかはその典型で、あとから読み返すと確かに、あの時のキャラクター達の行動は後戻りのできない選択の連続でした。凄いです。
ここまで凝ったサブタイトルを見ていると、担当者の方のシャドーハウスへの愛が感じられますね。やはり作品を読み込み、大切に想っているからこそのクオリティでしょう。
シャドーハウスのサブタイトルは、作品の魅力の一つと言っても過言ではありません。私は毎回楽しみにしていますし、最新話公開時に真っ先に目を通すという方は結構多いのではないでしょうか?
ところが、今回のお話を本誌で読むとサブタイトルがどこにもありません。扉にも書かれておらず、第82話の時のようにページをめくっても出てこないのです。不可解です。
しかし、それはその筈です。
なぜなら今回のサブタイトルは、予想を覆すタイミングで登場したからです。
それを見た私は、ケイトが受けたであろう衝撃を追体験していました。
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海の彼方にかすかに見える、少女が目指す“希望”の島。
目の前の海はあくまで穏やかで波一つありません。
ケイトはこの時、何を考えていたのでしょうか。
一人旅の不安でしょうか。
それとも、未知の場所へと行く好奇心でしょうか。
または、その二つがないまぜになった感情でしょうか。
しかし、彼女の背筋を伸ばした後姿からはいずれの感情も見出せません。まるで海の姿と同じように、波風のないフラットな感情がケイトを支配していたのかも知れません。
まさかその島に行ったことで、この風景とは真逆の波乱に満ちた日々を過ごすことになろうとは、当時のケイトは思ってもみなかったことでしょう。いよいよケイトの冒険が始まりました。
まず最初は、船に乗って海を渡ります。
船と言っても蒸気船です。流石に、侍女が漕いできたような小舟ではなかったようです。まああの小舟が残っていても、体力のないケイトでは難儀したことでしょう。少しホッとしました。
お代とかはどうなんだろうとか、顔を見られなかったのかとか、細かいところが気になりますが、それについては後回しにします。これより、その答えとなるシーンが次々と描写されます。
船上には家族連れや夫婦が多く乗っています。ケイトが耳をそばだてると、ミラーハウスのあった島は活気に溢れており、観光や移住が盛んだそうです。また、飢えで苦しむ人がいないと語っていることから、逆に島外では飢えが珍しくないということでしょう。
現実世界でも、飢饉により土地を捨てて外地へと移住する例は散見されます。19世紀のアイルランド飢饉はその好例でしょうか。その時移住したアイルランド人の子孫がジョン・F・ケネディというのは有名な話ですね。(もしもジョン=ショーンが同じように指導者になったら面白いかも)
話が逸れましたので戻しましょう。
ケイトは人々の話を聞き、ミラーハウスは再建しているのではと考えました。
話によれば貴族の私有地とのことですし、繁栄しつつあるということはミラー家は滅亡していなかったことになります。ケイトは島へと視線を向けます。
丁度その時、ケイトにある夫婦が話し掛けました。
見たところ温和な夫婦です。男性の方は不躾にもケイトの顔を覗き込もうとしますが、ケイトは顔を覆って恐がるふりをして難を逃れます。女性の方の制止もあって事なきを得ました。
(子供ぶって恐がるふりするケイト可愛い。仕草も可愛い。)
夫婦はケイトが一人旅をしていると見るや、早合点か、島内状況について話してくれました。
どうやら島の子供は無償で学校に通えるとのことで、島外から見ると子供は歓迎されている節があるとのことです。
それを聞いて増々ケイトは、島は裕福なのだろうと想像しました。
ここでケイトは、侍女との生活を振り返ります。
ケイトの育った村では学校に通えるのは僅かで、ケイトも通学していたものの、隣町まで馬車で行かなければならなかったようです。
そうまでしてケイトが学校に通うことができたのは、侍女が資金を工面してくれていたからです。
侍女はキャサリンが身に付けていた宝石を売って、ケイトを育てていたのです。キャサリンの遺言通り、侍女は自身を顧みることなくケイトを大切にしていたのでしょう。前話の侍女の台詞は、やはり嘘偽りないものでした。
しかしその侍女に対し、ケイトは何も言わずに出て来てしまいました。ケイトの気持ちは分かりますが、このすれ違いは見ていて切なくなるものがあります。もう少し、侍女のことも考えてあげて欲しいと思わずにいられません。
ところが、私はこの点に関し重大な読み違えをしていました。
何と、ちゃんと置き手紙をしていたそうです!
やっぱりケイトは、我々がこれまで見てきたケイトでした。本当に何も言わないまま家を出たわけではなかったのです。あの状況下で捻くれなかったケイトと、まっすぐケイトを育てた侍女に敬服します。
彼女達の絆を信じ切ることができなかったとは、何たる不覚っっ!!
さて、またもや話が逸れそうなので戻しましょう。丁度夫婦の会話も本題に戻りました。
「なんとか家っていう素晴らしい貴族の館があるとか」
ケイトはそれを聞き、すかさずミラー家かと尋ねます。
しかし女性の方はなんとも歯切れが悪いです。まるで「ミラー家」という名前を聞いたことのないような素振りです。
一体これはどういうことでしょうか?島内にある貴族と言えばミラー家に決まっています。なのにそれを知らないとは何とも不可解です。
そんな風に、ミラー家の行方に不穏な気配が立ち込めるのと同時に、男性は不吉なことを言い始めました。
島の様子を見て不気味だと言うのです。
確かに、島には黒い煙で覆われた暗い雰囲気が漂っていました。
島へ辿り着くと、先程の空気がどこかへ吹っ飛ぶようなキャラクターが登場しました。
全身黒いドレスの、長身ハイテンションな人物が現れたからです。
煤だらけの島を見て、汚いと零す先程の夫婦に対して「おほほほ!」と笑いながら、島最大の観光地「スモークゲート」を案内するハイテンションガール。
彼女曰く、この島の名前は「すす島」といい、スモークゲートでは観光客に「すす炭」の素晴らしさを知って貰うために一番最初に案内する場所だそうです。
しかし我々読者から見れば、この煤が人間に何をもたらすのかは重々承知しています。吸っても平気、軽くて便利、と言われても怪しさしかありません。すす炭がもたらす恩恵を並べ語られても、警戒心が強まるばかりです。
一旦夫婦と別れたケイトも、同じように思ったようです。宿に着くと、煤で汚れた部屋を見て汚いと感じ、「すす炭」とか「すす島」とは何ぞやと考えを巡らせます。
やがて思考は、ケイト自身から出る煤へと至り、そもそもの始まりとなったモーフの疑問へと繋がっていきました。
答えの出ない問いは置くとして、ケイトはそれから暫く島内を散策していたようです。服屋やレストランなど様々なところを訪れたことが伺えます。
しかしケイトは一つの違和感に気付きました。領主たる「ミラー家」、ひいてはその館となる「ミラーハウス」の名が一向に聞こえてこないのです。
ミラーハウスを目指してやってきたケイトならば、聞き逃す筈がないでしょう。自分の存在の手掛かりとなる名前ならなおさらです。なのに誰も「ミラーハウス」という単語を言っていないのです。
ケイトは疑問に思い、道を歩く男性にミラーハウスに行きたいと尋ねました。
ところが、男性はケイトが尋ねたのとは少し違う「ミラーサイド」への行き方を教えました。汽車に乗ればすぐだとのことです。
ケイトは、いよいよこれはおかしいと感じ始めました。
同時に、島内の人間があまりにも朗らかな態度であることに疑いを持ちます。尋常でない人の良さだというのです。おまけに、頭まで布で覆われたケイトの格好を誰も気にしないのも不思議です。
怪しまれるといけないので、詮索しすぎないよう一旦ケイトはその場を離れますが、それにしたって自分で調べるよりほかになさそうです。
ケイトは侍女がミラーサイドについて話していたことを思い出すと、ミラーサイドへと行くべく、大陸よりも代金が安いという汽車に乗りました。
ミラーサイドはミラーハウスに近い場所にある、と侍女から聞かされていたのです。
しかし運命の悪戯か、汽車の行く先はケイトにとって驚愕の真実への道のりでした。
ミラーサイドまであと少しというところで、ある二人組が汽車に乗り込んできました。船で出会った、あの夫婦です。
しかし、彼らの様子は以前出会った頃と違っていました。島に降り立った当初は煤を「汚い」と言っていたのに、今の彼らは煤まみれだからです。服だけではなく顔も真っ黒です。
おまけに、まるですす島に心酔しているかのように、この島がいかに良い場所かと繰り返します。自分達だけでなく近所も移住に誘おうと乗り気です。船上から島を見た時の不安など一縷も残っていませんでした。
和気藹々とする夫婦の姿を無言で見守るケイト。何かを思案しているのでしょうか。ひょっとしたら、夫婦の性格が島の住人に似てきたと考えていたのかも知れません。
ただその思索も、男性の言ったある一言で中断されました。
とうとう「館」という言葉が出てきたからです。
笑顔でケイトに、島に住む子供は「館」で働けるかも知れないと語り掛ける男性。それを聞き、ケイトは思わず声を上げて館について尋ねようとしました。とうとう、ミラーハウスについて知ることができるチャンスが巡ったからです。
しかし、それさえも信じられない事実が阻みました。
夫婦が窓に視線を向け、ここからその「館」が見えると歓喜の声を上げます。まるでそれは、珈琲によって洗脳された“こどもたち”のようです。
いや、まさに“それ”でした。
夫婦の声に窓を振り返ったケイト。視線の先には漆黒の館が見えます。
ところがその名は、ケイトの希望となるミラーハウスではありませんでした。
「シャドーハウス」
間が抜けたような、何の変哲のない吹き出しに書かれた7つの文字。
これこそが本エピソードの副題であり、そして3年越しで出現した本作の名です。
この時のケイトは、きっとまだ絶望も悲しみも疑問もなかったことでしょう。あるのはただ、あの吹き出しのように抑揚のない、茫然自失とした感情だけだったと思います。
しかしこの瞬間こそが、ケイトにとってもう後戻りのできない帰還不能点でした。
ここから見た「館」の姿は、今のケイトが決して見ることのできない景色です。
果たして次にケイトがこの景色を見られるのはいつになるのか。
その時ケイトはどんな心持でこの景色を眺めるのか。
まだ先のことだというのに、今話の衝撃をよそにそんなことを考えてしまいました。
海の彼方にかすかに見える、少女が目指す“希望”の島。
目の前の海はあくまで穏やかで波一つありません。
ケイトはこの時、何を考えていたのでしょうか。
一人旅の不安でしょうか。
それとも、未知の場所へと行く好奇心でしょうか。
または、その二つがないまぜになった感情でしょうか。
しかし、彼女の背筋を伸ばした後姿からはいずれの感情も見出せません。まるで海の姿と同じように、波風のないフラットな感情がケイトを支配していたのかも知れません。
まさかその島に行ったことで、この風景とは真逆の波乱に満ちた日々を過ごすことになろうとは、当時のケイトは思ってもみなかったことでしょう。いよいよケイトの冒険が始まりました。
まず最初は、船に乗って海を渡ります。
船と言っても蒸気船です。流石に、侍女が漕いできたような小舟ではなかったようです。まああの小舟が残っていても、体力のないケイトでは難儀したことでしょう。少しホッとしました。
お代とかはどうなんだろうとか、顔を見られなかったのかとか、細かいところが気になりますが、それについては後回しにします。これより、その答えとなるシーンが次々と描写されます。
船上には家族連れや夫婦が多く乗っています。ケイトが耳をそばだてると、ミラーハウスのあった島は活気に溢れており、観光や移住が盛んだそうです。また、飢えで苦しむ人がいないと語っていることから、逆に島外では飢えが珍しくないということでしょう。
現実世界でも、飢饉により土地を捨てて外地へと移住する例は散見されます。19世紀のアイルランド飢饉はその好例でしょうか。その時移住したアイルランド人の子孫がジョン・F・ケネディというのは有名な話ですね。(もしもジョン=ショーンが同じように指導者になったら面白いかも)
話が逸れましたので戻しましょう。
ケイトは人々の話を聞き、ミラーハウスは再建しているのではと考えました。
話によれば貴族の私有地とのことですし、繁栄しつつあるということはミラー家は滅亡していなかったことになります。ケイトは島へと視線を向けます。
丁度その時、ケイトにある夫婦が話し掛けました。
見たところ温和な夫婦です。男性の方は不躾にもケイトの顔を覗き込もうとしますが、ケイトは顔を覆って恐がるふりをして難を逃れます。女性の方の制止もあって事なきを得ました。
(子供ぶって恐がるふりするケイト可愛い。仕草も可愛い。)
夫婦はケイトが一人旅をしていると見るや、早合点か、島内状況について話してくれました。
どうやら島の子供は無償で学校に通えるとのことで、島外から見ると子供は歓迎されている節があるとのことです。
それを聞いて増々ケイトは、島は裕福なのだろうと想像しました。
ここでケイトは、侍女との生活を振り返ります。
ケイトの育った村では学校に通えるのは僅かで、ケイトも通学していたものの、隣町まで馬車で行かなければならなかったようです。
そうまでしてケイトが学校に通うことができたのは、侍女が資金を工面してくれていたからです。
侍女はキャサリンが身に付けていた宝石を売って、ケイトを育てていたのです。キャサリンの遺言通り、侍女は自身を顧みることなくケイトを大切にしていたのでしょう。前話の侍女の台詞は、やはり嘘偽りないものでした。
しかしその侍女に対し、ケイトは何も言わずに出て来てしまいました。ケイトの気持ちは分かりますが、このすれ違いは見ていて切なくなるものがあります。もう少し、侍女のことも考えてあげて欲しいと思わずにいられません。
ところが、私はこの点に関し重大な読み違えをしていました。
何と、ちゃんと置き手紙をしていたそうです!
やっぱりケイトは、我々がこれまで見てきたケイトでした。本当に何も言わないまま家を出たわけではなかったのです。あの状況下で捻くれなかったケイトと、まっすぐケイトを育てた侍女に敬服します。
彼女達の絆を信じ切ることができなかったとは、何たる不覚っっ!!
さて、またもや話が逸れそうなので戻しましょう。丁度夫婦の会話も本題に戻りました。
「なんとか家っていう素晴らしい貴族の館があるとか」
ケイトはそれを聞き、すかさずミラー家かと尋ねます。
しかし女性の方はなんとも歯切れが悪いです。まるで「ミラー家」という名前を聞いたことのないような素振りです。
一体これはどういうことでしょうか?島内にある貴族と言えばミラー家に決まっています。なのにそれを知らないとは何とも不可解です。
そんな風に、ミラー家の行方に不穏な気配が立ち込めるのと同時に、男性は不吉なことを言い始めました。
島の様子を見て不気味だと言うのです。
確かに、島には黒い煙で覆われた暗い雰囲気が漂っていました。
島へ辿り着くと、先程の空気がどこかへ吹っ飛ぶようなキャラクターが登場しました。
全身黒いドレスの、長身ハイテンションな人物が現れたからです。
煤だらけの島を見て、汚いと零す先程の夫婦に対して「おほほほ!」と笑いながら、島最大の観光地「スモークゲート」を案内するハイテンションガール。
彼女曰く、この島の名前は「すす島」といい、スモークゲートでは観光客に「すす炭」の素晴らしさを知って貰うために一番最初に案内する場所だそうです。
しかし我々読者から見れば、この煤が人間に何をもたらすのかは重々承知しています。吸っても平気、軽くて便利、と言われても怪しさしかありません。すす炭がもたらす恩恵を並べ語られても、警戒心が強まるばかりです。
一旦夫婦と別れたケイトも、同じように思ったようです。宿に着くと、煤で汚れた部屋を見て汚いと感じ、「すす炭」とか「すす島」とは何ぞやと考えを巡らせます。
やがて思考は、ケイト自身から出る煤へと至り、そもそもの始まりとなったモーフの疑問へと繋がっていきました。
答えの出ない問いは置くとして、ケイトはそれから暫く島内を散策していたようです。服屋やレストランなど様々なところを訪れたことが伺えます。
しかしケイトは一つの違和感に気付きました。領主たる「ミラー家」、ひいてはその館となる「ミラーハウス」の名が一向に聞こえてこないのです。
ミラーハウスを目指してやってきたケイトならば、聞き逃す筈がないでしょう。自分の存在の手掛かりとなる名前ならなおさらです。なのに誰も「ミラーハウス」という単語を言っていないのです。
ケイトは疑問に思い、道を歩く男性にミラーハウスに行きたいと尋ねました。
ところが、男性はケイトが尋ねたのとは少し違う「ミラーサイド」への行き方を教えました。汽車に乗ればすぐだとのことです。
ケイトは、いよいよこれはおかしいと感じ始めました。
同時に、島内の人間があまりにも朗らかな態度であることに疑いを持ちます。尋常でない人の良さだというのです。おまけに、頭まで布で覆われたケイトの格好を誰も気にしないのも不思議です。
怪しまれるといけないので、詮索しすぎないよう一旦ケイトはその場を離れますが、それにしたって自分で調べるよりほかになさそうです。
ケイトは侍女がミラーサイドについて話していたことを思い出すと、ミラーサイドへと行くべく、大陸よりも代金が安いという汽車に乗りました。
ミラーサイドはミラーハウスに近い場所にある、と侍女から聞かされていたのです。
しかし運命の悪戯か、汽車の行く先はケイトにとって驚愕の真実への道のりでした。
ミラーサイドまであと少しというところで、ある二人組が汽車に乗り込んできました。船で出会った、あの夫婦です。
しかし、彼らの様子は以前出会った頃と違っていました。島に降り立った当初は煤を「汚い」と言っていたのに、今の彼らは煤まみれだからです。服だけではなく顔も真っ黒です。
おまけに、まるですす島に心酔しているかのように、この島がいかに良い場所かと繰り返します。自分達だけでなく近所も移住に誘おうと乗り気です。船上から島を見た時の不安など一縷も残っていませんでした。
和気藹々とする夫婦の姿を無言で見守るケイト。何かを思案しているのでしょうか。ひょっとしたら、夫婦の性格が島の住人に似てきたと考えていたのかも知れません。
ただその思索も、男性の言ったある一言で中断されました。
とうとう「館」という言葉が出てきたからです。
笑顔でケイトに、島に住む子供は「館」で働けるかも知れないと語り掛ける男性。それを聞き、ケイトは思わず声を上げて館について尋ねようとしました。とうとう、ミラーハウスについて知ることができるチャンスが巡ったからです。
しかし、それさえも信じられない事実が阻みました。
夫婦が窓に視線を向け、ここからその「館」が見えると歓喜の声を上げます。まるでそれは、珈琲によって洗脳された“こどもたち”のようです。
いや、まさに“それ”でした。
夫婦の声に窓を振り返ったケイト。視線の先には漆黒の館が見えます。
ところがその名は、ケイトの希望となるミラーハウスではありませんでした。
「シャドーハウス」
間が抜けたような、何の変哲のない吹き出しに書かれた7つの文字。
これこそが本エピソードの副題であり、そして3年越しで出現した本作の名です。
この時のケイトは、きっとまだ絶望も悲しみも疑問もなかったことでしょう。あるのはただ、あの吹き出しのように抑揚のない、茫然自失とした感情だけだったと思います。
しかしこの瞬間こそが、ケイトにとってもう後戻りのできない帰還不能点でした。
ここから見た「館」の姿は、今のケイトが決して見ることのできない景色です。
果たして次にケイトがこの景色を見られるのはいつになるのか。
その時ケイトはどんな心持でこの景色を眺めるのか。
まだ先のことだというのに、今話の衝撃をよそにそんなことを考えてしまいました。

島では貴族のもと住人たちが生活していると聞けば、まずはミラーハウスが再興したと考えるでしょう。まさかモーフが貴族に成り代わって支配しているなんて考えてはいなかったでしょうね。
これからミラーサイドへ向かうようですが、エミリコと出会い屋敷への侵入を決行するまではどのくらいでしょうね。
アプリのカラー版では島の紹介をしていた女性のドレスは赤黒いカラーでした。
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