いや~、最高でした。
今もまだ第24話を読んだ後の高揚感が続いていて、何だかとりとめのないようなそんな気分です。

前話のラストから推測した話の流れとは違いましたが、確かにケイトの“エミリコ”という名前に込めた想い、しかと見せて貰いました。

これです、これですよ。
エミリコを慈母の様に包み込むケイト嬢。
この眼差しこそが、エミリコをエミリコたらしめているのです。

ひいては、シャドーハウスという作品を形作る輪郭の一つともいえるでしょう。

コインに裏と表があるのと同じように、この作品も絶妙な"明"と"暗"で構成されています。
此度のケイトの独白はまさに、本作品の明るい部分の象徴といっても差支えはないでしょう。


我々読者は、第一話のエミリコがケイトに仕えてからの出来事しか知りません。

なので、エミリコの天真爛漫な性格をケイトが呆れつつも見守る、という構図がすぐに思い浮かびますが、恐らく最初からそうではなかった筈なんですよね。
多分出逢った当初は、ケイトがエミリコのことを気にかけながら世話を焼いていたと思います。
その過程でケイトの考え、哲学というものを知らず知らずのうちにエミリコは吸収していたのではないでしょうか。

時を経るに従い、どんどんとエミリコのペースに巻き込まれるケイト。
エミリコが自然体でいられるのは、ひとえにケイトが“エミリコ”という存在を認めているからにほかなりません。

名は親が与える最初の贈り物、という言葉があります。
そのケイトの想いに応えるかのように、エミリコはシャドー家の因習に縛られない素敵な子に育ちました。
エミリコの言葉を借りるならば、こんな風にエミリコを仕立てたのはケイトです。


ケイトがなぜ、ややもするとシャドー家からつまはじきにされるかも知れない行動に出るのかは分かりません。
彼女が生まれながらに持つ性格によるものなのか、それとも部屋で本を読む中で自ら見出した倫理なのか…。

いずれにせよ、最後に互いを見つめあいながら踊る二人は、ケイトとエミリコがこれまで築き上げてきた関係の集大成といえる、とても美しい姿でした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



さて、綺麗に感想がまとまったと思いましたが、そうはいかないのがこのシャドーハウスという作品です。

なぜなら、まだお披露目の真っ最中だからです。
ケイトとエミリコが華麗に踊る姿に心奪われ、危うく忘れかけてましたよ。

しかも我々読者はケイトの独白によって彼女の想いを知ることができますが、エミリコにとってはなぜケイトが自身と似つかない名前をエミリコに授けたのかさっぱり分からない状態です。
つまり名付け問題に関しては何も解決していないんですよね。

じゃあなぜ物語が進んだかといいますと、大雑把にいえば棚上げにされたからです。

完全に予想の斜め上でした。
単行本1巻が12話収められていたので、多分今回のお話が2巻の最後になるだろうと予想はしていました。その上でどうやって話をまとめるのだろうと思っていたのですが、確かに一番綺麗に締めるにはこれが最適解だったのでしょうね。
エミリコの名が持つ意味についてはまた今度期待しましょう。

さて、では一体ぜんたいどうやって棚上げにされたのか。
それは特別な生き人形、エドワードがいきなりピアノを弾き始めたからです。


皆の注目がそっちに向いたことで、とりあえずはルイーズとパトリックから逃れることのできたケイト。
ですがかなりのプレッシャーだったようで、ケイトから出る煤が止まりません。
もしあのままルイーズ達から責め立てられ続けていたらどうなっていたのかと心配になるほど、心乱されてしまっています。

しかし、それにしてもエドワードの行動は不可解です。
もしシャドーと生き人形の適性を見るのであれば、あのまま放っておいてケイトの反応を見るのが自然かと思います。にも関わらず、もう十分とばかりに唐突にピアノを弾いたのはなぜでしょうか。
まるでケイトをフォローしたのではと勘繰りたくなる、そんな行動です。

何だかエドワードは“お披露目”の進行役でしかなく、本当はどこかでシャドー家の長老や実力者が新人達の振る舞いを見ているんじゃないかと思えてきますよ。でないと、誰に対するお披露目なんだ、という気がしますし。

まあお披露目に関する憶測は置いておくとしまして、まずはエミリコに不満を募らせるケイト。
完全に自分を見失っています。
普段のケイトからは想像もできない真っ黒な感情が、煤と共に大量に湧き上がってきました。

今のところ大した失敗をしていない二組を見て、エミリコと比べるケイト。

ルイーズとルウは、ルウ(顔)のことが大好きなルイーズに、完璧に顔の役割を果たすルウがその想いに応えています。
パトリックとリッキーは、野望を持つパトリックを、空気を読むことに長けているリッキーがうまく補佐しています。

エミリコが動揺したのを目の前にして、ケイトはとうとう、“サラ達の様にならないといけないのに”、と思うまでに追い詰められてしまいました。
以前悪態を突かれた相手にも関わらず、こうまで考えてしまっているわけです。
まだ自分にはやることがあるのに、とこぶしを握り締めるケイトの姿には、いつもの貴族然とした雰囲気は全くありません。

普段と違う様子のケイトに戸惑うエミリコ。
そんな彼女に救いの手を差し伸べたのは、数刻前にエミリコからアドバイスを貰ったラムでした。

本当にささやかな仕草ではありますが、シャーリーをダンスに誘った後にエミリコの傍らを通り過ぎながら、人差し指で“ありがとう”というサインを出しました。
意外な相手から意外な行動を見せられてエミリコはポカンとしますが、さらにそれに続いてショーンがエミリコの肩を叩いて、小さくガッツポーズをとります。
こちらは、“頑張れ!”のサインです。

深夜の見廻り組のメンバーから思わぬ激励を受けたエミリコ。
委縮していた心を振り払うと、いつもの笑顔でケイトに語り掛けました。
その姿に衝撃を受けるケイト。

ケイトを心動かしたのは、エミリコの笑顔だけではありません。
彼女は、ラムとショーンがエミリコに合図を送ったのをちゃんと見ています。

エミリコの良さ。
それは、シャドー家の掟とは異なる位置にあることにケイトは思い至りました。
お披露目が始まってからずっと、エミリコのことを見ていなかったことに気が付いたのです。

自身がエミリコに何を求め、そしてどうなって欲しいと願っていたのか。
そのことを思い出したケイトは、エミリコに、

『笑って』
『凛々しく』
『もっと笑って』

と、お披露目前日と同じような行動を命じます。

いえ、若干違いますね。
今回はエミリコを落ち込ませてはいません。
そして、これからお披露目で必要になるであろう凛々しい表情を、エミリコにさせています。

これでケイトも、いつもの調子を取り戻しました。
我々がいつも見てきた、あの優しいケイト嬢です。

“お披露目”という舞台。
その大一番の空気に飲み込まれたかに見えたケイトでしたが、
『シャドーとしての正しさを わたしは求めていたわけではない』
とまで言い切ります。(もちろん心の中でですが)

先程も書きましたが、ケイトには何かやりたいことがあるようです。
そのやりたいこととは、ケイトがエミリコに求めていることとは無関係ではないでしょう。

今までのケイトのエミリコに対する態度からは、シャドー家における生き人形との主従関係とは違うものが感じられましたが、そのことについて遂に、ケイトから言及があったわけです。
もちろんまだ具体的なことは分かりません。
ですが、前にエミリコが疑問に思った、"ケイトは何がしたいのか"という話に繋がっていくのだと思われます。


ケイトは、ダンスなんてしたことがないエミリコの足に煤をまとわりつかせました。
勝手に足が動くのを不思議がるエミリコ。
そう、ケイトの特技である、あの煤を操る能力です。

楽しそうな顔で踊るエミリコと、それを見つめる優雅なケイト。
ケイトの台詞と相まって、とても美しい光景です。

ケイトの台詞には、エミリコへの溢れるばかりの想いが込められていて、涙なくしては読めません。
個人的には、第六話でエミリコがケイトの両手を握り締めながら、向かい合って言った台詞のアンサーだと思っています。


本来であればただの召使であり、従者でしかないはずの生き人形。

でもケイトにとっては何物にも代えがたい、それこそ特別な生き人形がエミリコなのでしょう。

ケイトは、なぜエミリコという自身とは離れた名前を付けたのかについて
“私(ケイト)とは違う『個』でいて欲しいから”
と語っています。

しかしエミリコと踊るケイトの顔は、きっとエミリコが見せている笑顔と何一つ変わらない、優しい表情だった筈です。

今この瞬間だけは誰も阻むことの出来ない二人だけの世界が、そこには広がっていました。