“左利き双子説”という説があります。

一卵性・二卵性に関わらず、双子は単生児に比べて左利きの出現割合が多いことから提唱された説です。
つまり単生児の左利きは、もともと胎内で双子だった筈が、右利きの胎児が何らかの理由で消滅した結果生まれたということです。

しかし、これだけではなぜ左利きが生まれるのかその理由は判然としません。
現在の研究では脳の構造や遺伝子も関係している可能性があると考えられていますが、まだこれといった説はないそうです。

結局のところは、左利きが生まれる理由は複合的な要因が絡んだ結果、偶発的に出現すると考えた方が自然なのかも知れません。


ところで、実は私管理人も左利きです。

左利きというとまあ珍しがられることもあるのですが、これまでその恩恵を受けたことはほとんどありません。初対面の人とちょっとした話のきっかけになったとか、その程度でしょうか。(右腕に時計をしていると、ちょくちょく気付く人がいたりします)


私が先に挙げた“左利き双子説”を知ったのは、幼い頃にあるテレビ番組を観ていた時でした。その番組でも、単生児の左利きは双子の片方が消失した結果誕生したと解説されていました。

当時、それを聞いて奇妙な気分に襲われたのをよく覚えています。


私は双子ではありません。

ということは、本来であれば双子の兄弟あるいは姉妹がいたかも知れません。
もしそうだとしたら、果たしてどんな存在で、どんな人間だったのか…。

あるいは、ひょっとしたら消失していたのは片割れの方ではなく、自身の方だったかも知れません。
もしそうだとしたら、今の自分は生まれてこなかったということになるのか…。


幼いながらもそんなことを考えて、背筋がぞっとしました。
そして暫くの間、そのことが頭から離れませんでした。

今でも時々、そのことを思い出しては不思議な気分になります。


ただ私の場合は、ただの幻想と言ってしまえばそれまでです。
存在したか分からない双子の相方に思い馳せたところで、所詮は想像の産物でしかありません。

もしも実際に、生まれた時からずっと傍にいた自分と同じ顔・同じ体・同じ考えを持つ人間が突如消え失せたとすれば、それは考えもつかない困惑をもたらすことでしょう。


今回のお話では、「ふたりでひとり」と刷り込まれたが故に戸惑う、“ひとり”の少女がいました。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


扉絵はイザベルとミラベル、そして二人に挟まれたベルです。
中央にはこの組の解説が載っています。

第79話でぼやかして描かれていたもう一人のベルですが、こうやってはっきり「衰弱死」と書かれていると辛いものがありますね。
せめて“顔の見えない人形”になってくれていればと思っていましたが、残念ながらその命は失われました。


おまけに、衰弱した直接の原因であるすす管清掃ですが、その発端となった珈琲瓶の破壊に関しては彼女達は冤罪です。その濡れ衣を着せたのはマリーローズでした。

ケイトとの会話で「私たちは皆シャドーハウスに命を弄ばれている」と怒りに震えていた本人が、因果応報とはいえ一人の“生き人形”を死に至らしめるとは、なんという皮肉でしょうか。

「許されないことを…してきたんだよ」と自身を振り返っていたマリーローズですが、ベルに関しても大きな罪をマリーローズ達は背負ってしまいました。


そのマリーローズ達に代わって、班長に就任したケイト。
開幕早々ため息で登場です。

館を歩きながら珍しく途方に暮れるケイトですが、その理由は班長の「日課」にありました。
実は、班長は班員の行動に問題がないかどうかを毎日星つきに報告しなければならないのだそうです。

しかし、ルイーズとサラの姿が見えません。
館の中を探すだけで一苦労です。

おまけに、イザベルとミラベルはあの一件以来部屋から出てきておらず、早速ケイトは壁にぶつかってしまいました。


エミリコは気が重いと語る主人を元気づけるため、サロンで休憩しようと提案しました。
サロンでしたらケイトの好きな紅茶もあります。一旦リラックスするのが大事だと考えたのです。


ところが、第66話でリッキーがパトリックを温室に案内した時と同じく、従者の思いが裏目に出てしまいました。


窓際で紅茶を注ぐケイト。
そんな彼女に、ある集団が目を付けます。


「サロンにひとりで来る悲しい奴…」

そう難癖をつけてきたのは黒い球体とバーコード……。ではなく、ダグラス組でした。
その後ろでは、班員の3組がケイトとエミリコに好奇の視線を向けています。


それが合図だったのか、突如彼らは自己紹介を始めました。

班長のダグラス。
ヤンキー座りのジェームズ。
ナルシストっぽいローレンス。
小細工を仕掛けてきそうなピーター。

彼ら4名が第1班・ダグラス班の面々です。


そんな騒々しい彼らを見て、ケイトは騒がしいと煤を出しました。

しかしそのケイトの反応を見て、ダグラスはまた騒ぎ出します。
なぜなら、ケイトはこのサロンでのルールを知らなかったからです。


実は、こどもたちの棟においてサロンで一人でいるのは「恥」と見做されるというのです。
それをケイトが知らなかったということは、要するにサラから教えて貰っていないということであり、即ちサラからケイトは認められていないということを示唆しています。

しかもなぜか彼はルイーズの行動を把握しており、星つきの居住棟に出入りするのは問題行動ではないかとケイトを煽ります。

そして最後には、班員の行動さえ把握できていないケイトを更に囃し立てました。


まるっきり学園モノによく登場する、嫌みなリーダー集団です。米国の学校社会でいえば、ナードを馬鹿にするジョックスのようなものでしょうか。(因みに、近年の我が国では学校社会の序列の事を「スクールカースト」というらしいです)

態度といい言動といい、とにかくいけ好かない少年たちです。嫌みな性格もここまで突き抜けていればもはや清々しい位です。というか、なぜ肩を組んでいるのか意味不明です。


ただ逆に見れば、彼らの結束は固いことが見て取れます。そういえば、第二次亡霊騒動でダグラス班はうまく立ち回り一人の犠牲も出しませんでした。班の番号が何を示しているのか分かりませんが、もしも優秀な順に班番号が割り振られているとすれば、ダグラス班は“優秀”なのでしょう。

例えケイトのように気高い精神を持っていたとしても、それがリーダーとして集団をまとめ上げる能力に繋がらないのは、深夜の同期会で実証済みです。
ある意味、ケイトと対極の存在とみていいかも知れませんね。

今現在の姿だけ見れば憎たらしくて仕方ありませんが、同期会でルイーズの台詞からケイトが気付きを得たように、もしかしたらダグラス班からケイトは、班をまとめるためのヒントを得るかも知れません。その時のダグラスの顔が楽しみです。


ただそんな仮定の話をしたところで、今現在のケイトの姿は惨めなものでした。こういった手合いは相手にするだけ無駄です。
嘲り笑うダグラス班から逃げるように、ケイトとエミリコはサロンを去りました。


ダグラス班とのやり取りで、大量の煤を出すケイト。
彼女の煤が目印だったのか分かりませんが、それを見てある1組が声を掛けました。

ケイトの(自称)婚約者、ジョンです。

何があったのかと問いかけるジョン。
ショーンもジョンとピッタリの表情をしています。きっとショーンもケイトのことが心配だったのでしょう。こちらもすす珈琲がなくても息の合った良いコンビです。

見慣れた二人の姿を見て、ケイトの煤が止まりました。
第59話ではダグラス班を見ていた時のケイトは煤が出ておらず、ジョンと会った時に煤が出ていたのに、それとは正反対のシーンとなりました。なんだか面白いですね。
ケイトとジョンの信頼関係が進展したのが手に取るように分かります。

ですがそんな読者の感想とは裏腹に、ジョン自らがケイトの「信頼」に言及すると、再びケイトは煤を出しました。乙女心は複雑です。


複雑と言えば、亡霊事件の顛末についてもこどもたちの棟では複雑な様相を呈していました。

なぜかというと、一握りのメンバーを除いて箝口令が敷かれたからです。

それを解説役(?)のジョンが、読者のために分かりやすくまとめてくれました。以下が現在のこどもたちの棟の認識です。


①ケイト&ジョン&星つき
 →犯人はマリーローズ。彼女達は栄光の廊下から身を投げた。
  (※栄光の廊下の破壊もマリーローズ達によるもの)

②パトリック&ルイーズ
 →犯人はマリーローズ。身柄は大人に引き渡された。
  (※栄光の廊下の顛末は知らない?)

③他のこどもたちの棟のメンバー
 →マリーローズはお呼ばれされた。
  (※犯人はベル姉妹という認識?)



※印は、私が推測として付けたものです。ただ概ね間違ってはいないかと思います。

こう見てみると、ものの見事にバラバラです。

ケイトからダグラス班のことを聞いた時は怒っていたジョンですが、情報を整理すると、ケイトがなぜ班長に相応しいかを皆に理解してもらうことの難しさに思い至りました。


おまけに、ケイトの現状を嘆くジョン本人も難題を抱えていました。

それは何かというと、彼だけが星つきから評価されなかったことです。

理由を聞いて納得するケイトですが、亡霊事件の捜査がなければジョンの評価はマイナスだったことになりますから、相変わらず危ない橋を渡っています。

パトリックとルイーズがどんな評価を与えられたか気になるところではありますが、まずはジョンの身が心配になってきました。
(ひょっとしたらルイーズの評価は、ベンジャミンのトレーニングルームの使用許可かも知れませんね。)


ですが悪いことばかりではありません。

ケイトがパトリックの洗脳状態を尋ねると、ジョンは以前に比べてシャドーハウスのルールにうるさくないと答えました。


これについてはすす珈琲を摂取していないことだけではなく、パトリックがエミリコへの恋心を自覚したことも大きな要因と思われますが、いずれにせよ良い傾向です。

ルウも洗脳が薄まった様子が最近描写されていますが、これについてもベンジャミンと会話したことで、ルイーズがこれまでとは違う考えを持ち始めたことも理由の一つでしょう。


直接的な作用ではないものの、亡霊事件の捜査によってパトリックとルイーズの洗脳が解けつつあるとすれば、ケイトの催した同期会は大成功だったと言えます。
それに加えて、マリーローズ達の“置き土産”によってすす珈琲の供給がストップしたわけですから、ケイトにとっては班長昇格と同じくらい大きな成果です。

栄光の廊下の修繕作業が良い方向に転がったことで、ケイトとジョン達に笑顔が浮かびました。


しかしそれも束の間、その後の動きを想像して二組は固まりました。

栄光の廊下の修理が完了した後に行われる「大人の訪問」。
エドワードの来訪が近づいているからです。

それまでに新たな手を打たねば、またすす珈琲漬けの日々が訪れることでしょう。それどころかケイトに何か仕掛けてくるかも知れません。

先程と一転して、ケイトとエミリコ・ジョンとショーンは焦りの表情を浮かべました。


真実を知る者同士の会話が一段落したところで、班長のウィリアムはジョンを呼び寄せました。
恐らく、遠巻きからケイトとジョンの様子を見ていたのでしょう。

直後のウィリアムとヘンリーの生き人形の表情からは、ケイトと関わり合いになるのを避けたがっているのがありありと現れていました。ジョンと班員の関係が決して悪いわけではないだけに、やりきれない思いです。


ケイトも二組の表情と仕草を見て、自身が孤立していることを悟りました。
少なくとも、班長クラスのメンバーの中でケイトに好意的な者はいなさそうです。

班員にも周囲のこどもたちからも距離を置かれてしまい、ケイトは落ち込んでしまいました。


しかしケイトには、誰よりも頼もしい味方が一番近くにいます。

もちろん、我らが主人公・エミリコです。

「ひとつずつ向き合ってきましょう」と元気に語りかけると、力強くこう言い切りました。


「ケイト様ならきっと解決できますよ!」



エミリコが寄せる変わらない信頼を見て、ケイトの心も晴れました。
いつだって、そして誰にだってエミリコの笑顔は世界を明るく照らし出します。

ケイトも弱気ではいけないと、いざイザベルとミラベルの部屋へと向かいました。


ただ強気になったからと言って、そんな簡単にいかないのが世の常です。
ページをめくると、またもや難題が降りかかりました。


登場するや否や、腰に手を当てて声を荒げる双子。
イザベルとミラベルはケイトが班長だなんて認めないと、徹底的に拒絶しました。

その奥では、二人の顔役をしているであろうベルが、すんとした顔で立っています。
このすました顔が、まさに今のイザベルとミラベルの表情でした。


ところが、ケイトとの会話に嫌気がさしたイザベルがベルの手を引いたことで風向きが変わりました。

ケイトを押しのけるかの如く部屋を出ようとするイザベル。
それを制止したのはケイトでもエミリコでもなく、相方のミラベルでした。

ミラベルの言い分を聞く限りでは、「顔」が一つになってしまったことからベルを交互に連れて室外に出ているようです。そして次の順番は自分なのだからイザベルは待つべきだとベルを引き留めました。

しかしイザベルはどこ吹く風で、順番などどうでもいいといった態度です。
その二人を見てケイトは、双子が現在置かれている状況を察しました。


ケイトに対して抗議していた時は息ぴったりだったのに、ベルを奪い合うことでイザベルとミラベルは言い合いを始めました。これにはベルも、どちらの顔をすれば良いのか戸惑ってしまっています。


互いに譲らない二人の主人。
それを見て、とうとうベルは混乱のあまり泣き出してしまいました。

以前では考えられなかった、ベルの感情をむき出しにした「表情」
シャドーハウスで、それも他の対が見ている前ではあってはならない事態です。

冒頭の煽り文句を借りれば、まさに『黄金比率の崩壊』といったところでしょうか。
生き人形の醜態を見てイザベルもミラベルも嘆きました。
イザベルもミラベルも従者を責めていないことだけが、せめてもの救いです。


更にヒートアップする姉妹喧嘩。
互いに胸を突いて口論する二人ですが、行動は全く一緒なのに意見はことごとく正反対です。
双方譲る気配は一つもありません。


しかしそんな3人の姿を見ながら、エミリコは別のことに気が付きました。

ベルが突然、泣き出した理由。

今話のシーンでは明かされていませんが、恐らく自身の経験を踏まえて、エミリコはこう推測した筈です。


『違います…これはすす病ではなくて――。洗脳が解けたからです。』


第80話でエミリコは、シャドーハウスで“日常”を過ごしながら辛い気持ちを感じて涙を浮かべていました。そのあまり、いっそ珈琲を飲めば楽になれるとまで思い詰めていたほどです。

ですが逆に見れば、館のしきたりよりも自身の感情が上回ったベルは、すす珈琲の影響を受けていない可能性が高いです。だからこそベルの感情があそこまで発露されたのです。


しかしそんなことは主人には関係ありません。
イザベルとミラベルにとってはシャドーハウスの生活が何よりも大事なのです。


とうとうこんな生活は嫌だと二人が音を上げると、事態は急転しました。
ケイトに今話最大の無理難題を突き付けたのです。

「ベルはどっちの顔なの!?」


さっきまでケイトを班長と認めないと叫んでいたのに随分と都合がいいものです。
イザベルとミラベルの急変にエミリコは驚き顔ですが、今回ばかりはケイトも似た顔なんじゃないかと感じました。この時のケイトの心を代弁するなら、『なんだそりゃ』といったところでしょう。


ケイトがこの問題をどう解決するのかについて、SNSや匿名掲示板では様々な推測がなされています。


大岡裁きのようにイザベルとミラベルにベルの手を引かせる、
これからの生活で「生き人形」を大切に扱った主人に権利を与える、
ひとまずなあなあで済ませて時間稼ぎをする、
今のところはどちらの「顔」でもないと曖昧な返事をする、
etc……


私個人の考えとしては、班長権限でケイトが『これから1週間二人の様子を見て相応しい方を主人と認めるわ』と言いながら洗脳を解除する方向に誘導するか、または完全に1日交代制にして諍いが生じないようにする、といった考えしか思いつきませんでした。

あるいは、『こんなことで喧嘩して偉大なるおじい様の機嫌を損ねるのは馬鹿らしいわ』と最高権力者の威を借りるといった線が無難でしょうか?
(どこかで見た台詞だと感じた方は、第71話をご覧下さい!)


前回のお話でエミリコが班長らしいところを見せたのですから、今度はケイトの番です。
きっと読者が考えもつかない解決策をケイトは持っているに違いありません。

名探偵ケイトの次は、“名奉行ケイト”の活躍に大期待です!