チャンスを目の前にして冷静でいられるかどうか。
それこそが勝負の分け目と言えます。

1979年の日本シリーズ最終戦は、近鉄バファローズにとってまさに“千載一遇”のチャンスでした。

二リーグ制成立当時から存在していた伝統ある猛牛球団。

球団創設から30年目にして初のリーグ優勝を決めたバファローズは、その勢いのまま日本シリーズを本拠地で連勝、その後広島東洋カープに王手をかけられるものの、再び舞い戻った本拠地で逆王手を掛け、日本一を目指します。

しかし、戦災から立ち上がった広島市民の期待を背負ったカープも、初の日本一を手にするためにあらゆる手を尽くします。

かくして「猛牛球団」VS「市民球団」の決着は、双方譲らぬまま第7戦へと突入しました。


この第7戦の最終回で繰り広げられたのが、名高き「江夏の21球」です。

バファローズは最終回の攻撃でカープのリリーフ・江夏豊を攻め立てるものの、無死満塁というサヨナラ勝ちの好機を生かせず、ついに1点も取れないまま敗北します。

特に、19球目に投じられたストライクゾーンから大きく外れたボールは、現在でも失投だったのか、それともスクイズバントを避けるために敢えて江夏投手が投げたのかは、野球選手・ファンの間で判断が分かれています。

シリーズ終了後、作家の山際淳司氏は当時の関係者の駆け引きを丹念に取材し、それをノンフィクション作品として発表しました。その中で、勝利を収めようと攻勢をかけるバファローズ側と、打たれ続けるうちに冷静さを取り戻す江夏豊投手の様子が明らかになります。

そのドキュメントは野球ファンから大反響を巻き起こし、やがて本の題名から上記の場面は「江夏の21球」と呼ばれるようになりました。

野球に興味のない方も、言葉だけは聞いたことがあるかも知れませんね。


昨年の本日、2月11日に惜しまれつつ亡くなった野村克也氏は、NHKのドキュメントで

「わたくしが考えますには、このプロ野球っていうのは半世紀が流れておりますけども、これ程の格好の場面っていうのは出くわしたことはないんでありまして、これからも恐らく出るか出ないか分からないと思う。それぐらいの名場面が、昭和54年・3年前の広島.近鉄の日本シリーズじゃなかったかと思います」(音声反訳)

と述べています。

また、近鉄バファローズは大阪近鉄バファローズと名前が変わった後も存続しますが、残念ながら2004年の球界再編の煽りを受けて消滅しました。

上記の野村克也氏のコメントや、結局一度も日本一になることができないまま歴史に幕を下ろしたバファローズの悲劇も相まって、今でも第30回日本シリーズは語り継がれています。


さて、この日本シリーズ第7戦最終回の攻防についてですが、まさに勝負を左右したのは『冷静でいられたかどうか』でした。

ドキュメント「江夏の21球」では、前半は失点が許されない状況で守勢しようと奮闘するカープバッテリーと、その隙を突くバファローズの攻撃が描かれます。片や後半は、ピンチを迎えるもののチームメイトの一言で冷静さを取り戻す江夏豊投手と、何としてでも点を取りたいと焦燥するバファローズ側の様子が描かれます。

最後の最後に広島東洋カープが栄光を手にしますが、その闘いは一寸先も見通せない非常にタフな闘いでした。勝負の分かれ目は、最終局面で普段通りの実力を出せるかどうかにかかっていたといえましょう。


今回のお話では、前回と打って変わって、現在のこどもたちの棟の状況は“千載一遇”のチャンスだと賭けに出るケイトの様子が描かれました。

しかし多くの方がSNSで憂慮するように、私もケイトの行動は、今までの彼女からは考えられない衝動的な打算に基づいた行為にしか見えません。

既に次回が待ち遠しいですが、ひとまず第90話を振り返りましょう。
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おじい様と共にある棟へと帰っていくエドワードを、無事見送ったバーバラ。

しかしかなりのプレッシャーを感じていたのか、突如発作を起こします。


舞い上がる大量の煤に驚くケイト達。

ところがベンジャミンはこどもたちを解散させ、栄光の廊下から離れるように指示します。
スザンナもバーバラのことは気にするなと言った素振りで、ケイト達を帰るように促します。


ケイトがバーバラの発作を見るのは3度目ですが、流石に辛そうな彼女を見てオリバーに「大丈夫なの?」と尋ねます。

その後の様子を見るからに、ベンジャミンもスザンナもバーバラのことは気にしていないように見えます。それがケイトには不思議だったのかも知れません。

しかしオリバーは、そっとしておいた方が良いと答えました。確かにそうかも知れません。ましてやバーバラはこどもたちの棟の代表なのですから、他のこどもたちに気遣われたくはないでしょう。

スザンナとベンジャミンは星つきの居住棟へ、バーバラは修練の間へ、オリバーはラボへと歩いていきました。

バーバラのことが心配なのか、ケイトからも若干の煤が出ていました。


バーバラの発作を目にしたこともあってか、ケイトは班員に疲れたからもう帰りましょうと振り返ります。

ところが、そこで信じられないことが起こりました。


あのエミリコが、倒れたのです。


ソウマトウ先生の告知ツイートでも、表情を見せずに倒れたエミリコを見て不安を感じた方も多いかと思います。エミリコの「顔」がこんな形で絵が描かれないのは実に第44話まで遡ります。思わず、すす珈琲で洗脳されたエミリコを思い出してしまいました。

ただそんな難しいことは抜きにして、とにかく人一倍元気なエミリコが倒れたとあれば一大事です。

ケイトは倒れるエミリコを見て驚きますが、サラがいる前では煤クッションは使えません。突発的な出来事に手も出せず、だた見つめるしかありませんでした。


しかしそんなエミリコを助けたのは、なんと生き人形のルウとベルでした。

頭を守るように抱えるルウと、背中を支えるベル。

彼女達によってエミリコは事なきを得ました。疲れてはいるようですが、何とか危機を回避します。


ところが、この行動を見逃さなかった一組がいました。

サラ組です。勝手な動きをする三人を叱責します。

思えばサラが公の場で直接他の生き人形に語り掛けるのは初めてですが、それは置いておきましょう。
とにかくケイトは班員達の姿を見て、とあることを思い付きました。


「珈琲の効果が薄れてきている!?」

気まずそうにするルウとベル。それが主人達と同じ表情か分かりませんが、少なくとも直前のエミリコを助けるという行動は洗脳下では考えられない行為です。

対して、サラの発言は館のルールを順守した行動でした。

それを見てケイトは合点が行ったとばかりに、すす珈琲を飲まなければこれからの洗脳解除に期待が持てると推測します。


ならばどうすれば良いか。

喜びの会を中止させるのは強硬手段に過ぎます。それこそマリーローズ組のように亡霊事件でも起こさなければ到底できません。

かといって、エドワードがこどもたちの棟に来たということは、新しいすす珈琲が提供された可能性があります。座して待つ先には、すす珈琲による生き人形の洗脳しかありません。


ここでケイトが考えたのは、珈琲豆をすり替えることでした。

星つきの居住棟のどこかにあるすす珈琲を、焙煎前に普通の珈琲豆と取り換えてしまおうというのです。

おまけに、丁度良すぎるタイミングでルイーズから吉報がもたらされました。

なんと、これからベンジャミンと合同トレーニング(筋トレデート?)だというのです。
ダグラスが言っていたルイーズの「星つきの居住棟への出入り」とは、このことを指していたのでした。

更にケイトが煽て上げると、次から次へと星つきの居住棟の情報がルイーズから出てきます。

第二次亡霊事件の捜査でもそうでしたが、ルイーズ達は相手の懐に入るのがうまいですね。星つきの居住棟の警備体制や、スザンナが警戒している部屋(1階)の在処までケイトに教えてくれました。


ルイーズの話を聞き、ケイトは決心を固めます。

星つきの居住棟には門があって、18時には閉まってしまいます。
しかもケイト曰く、それまでにあと30分しかありません。

しかし冒頭でもお話した通り、バーバラとオリバーは星つきの居住棟にはおらず、ベンジャミンはトレーニングルームにいます。

ということは、スザンナと顔の見えない人形さえどうにかすれば、珈琲豆のすり替えは不可能ではありません。

それどころか、今後二度と訪れないかも知れない絶好の機会です。

ケイトはサラからの誘いに後ろ髪引かれるものの、お構いなしに星つきの居住棟へと急ぎました。


マリーローズとローズマリーが作ってくれたチャンス。


これを逃さすわけにはいきません。

偶然会ったジョンとショーンが追いかけるのも厭わずに、渡り廊下を二人は駆けていきました。


しかし星つきの居住棟へ向かうケイトとエミリコを見て、サラとミアがほくそ笑んでいたことを彼女達は知らないでしょう。

そしておじい様と共にある棟では、全ての準備が終わったとばかりに、余裕の表情でくつろぐエドワードがいました。

エドワードがアイリーンとジェラルドに話した内容からするに、やはりダグラスとサラはベル姉妹が珈琲瓶を割ったことを喋ってしまったようです。

更に「星つきは重要な情報を隠している」という台詞を見る限りでは、エドワードは他にも星つきは隠し事をしていると疑っているに違いありません。


エドワードはダグラスとサラを手中に収めたと語っていますが、それに加えてサラがケイト達に何をしているのか皆目予想は尽きません。

そしてエドワードは、次の喜びの会が失敗したとあれば星つきを“反乱分子”と確定すると明言しました。


そうであるなら、万が一のことを考えればここでケイトは動かない方が得策です。
なぜなら、成功すれば星つきが処分され、失敗すれば再び生き人形達は洗脳下に置かれるからです。

ですがこれまで用意周到だったケイトからは想像もできないほど、衝動的にケイトは行動を起こしました。

自ら「正直大きな賭けよ!」と叫んだケイトですが、果たして対スザンナや対ローブシャドーの時のような準備がケイトにはできているのでしょうか?


ケイトにとって非常に長い「30分間」が今、始まります。