実は、シャドーハウスを読み始めた時から気になっていたことがあります。

それは“十字架”がどこにも見当たらないことです。

欧米をモデルにした世界観ならば、必ずと言っていい程見かけるキリスト教のシンボル。それがシャドーハウスでは全然描かれていないんですよね。

大抵欧米を舞台にした創作作品であれば、十字架を目にする機会はかなり多いです。それどころか、和風の世界観を持った作品でも十字架が出てくればあら不思議、あっという間にヨーロッパ風味のエキゾチックな世界観に様変わりです。
(※世界のキリスト教の分布図を見ると、必ずしも欧米だけではないですが)

また、あらゆる文化が混在した作品でも、十字架を身に付けたキャラクターがいれば敬虔な信者と相場は決まっています。流行りの“ギャップ萌え”ではありませんが、屈強なガタイの良い男性キャラが実は信心深い心の持ち主であることを示すために十字架を首からぶら下げている、なんていう描写もあったりしますよね。

“十字架”という存在は宗教だけにとどまらず、文化や国柄・人柄を示すキーアイコンでもあるのです。


ところが。

シャドーハウスでは欧米がモデルであれば大抵見かける、そのキーアイコンが全然見当たりません。

室内にも屋外にも、登場人物の服装にも全く見当たらないのです。

そのことに気付いた時、そういった“記号”(十字架)を作中に全く登場させていないのに、読者に欧米を連想させたシャドーハウスという作品の凄みに私は感嘆していました。背景と脚本だけでこの世界観を作り上げたソウマトウ先生のテクニックは類まれなものだと思います。

そしてその観点から見た場合、シャドーと生き人形の心の拠り所とは何かという話になるわけですが、それはもちろん“偉大なるおじい様”です。彼こそがシャドーハウスという館における絶対的な存在、崇拝対象なのです。


しかし、ケイトとエミリコが出会ったことによって、そんな“偉大なるおじい様”に対抗する人物が次々と登場することとなります。


エミリコを誰よりも大切に想うケイト、
“パンちゃん”という大切なものを手に入れたエミリコ、
ケイトを愛してやまないジョン……。


この3人以外にも反旗を翻した人物はいますが、彼ら彼女らに共通するのは“偉大なるおじい様”以外の存在を大切に想う心です。つまりシャドーハウスとは、主人公たちが閉鎖空間の因習から脱却し、そして本当の自分自身を手に入れるための物語なのです!!


ところが。

この記事を一番最初に構想していたのは平成末期の2019年4月頃だったのですが、それから2年経とうかという頃にそれを覆す描写が見つかりました。

2月10日に公開された、第90話のとあるシーンです。

そして、それはひょっとしたら『シャドーハウスとは一体何か』という謎の一端を解き明かす、一つのピースになるのではないかと思いました。


今回の記事では、館の建物に焦点を当ててシャドーハウスの謎に迫りたいと思います。

最新話の第106話までのネタバレを含みますので、未読の方はご注意下さい。



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『シャドーハウスに十字架は見当たらない』

シャドーハウスを読み始めてから、私がずっと抱いていたこの認識が覆ったのは第90話のラストページです。

お持ちの方は単行本第8巻の62ページ目を開いて下さい。お持ちでない方は、エドワードの視察が終わるや否や「塔の閉門まであと30分…やるしかないわ!!」とケイトが珈琲豆のすり替えのために走り出したシーンを思い出して下さい。


お分かりでしょうか?

星つきの居住塔の門の脇に、十字を象ったような窓があることを。

そして読み返してみると、直前の見開きページにも十字に似た装飾が見受けられます。ケイトが「バーバラは修練の間へ」と喋っている吹き出しの真下の屋根です。


第90話のラストページを見た時は「まさか」と思いました。本記事の冒頭で書いた通り、シャドーハウスに現実世界の信仰が描かれるとは思っていなかったからです。

ただ前ページを見返して似た装飾を見つけた時、私には新たな仮説が思い浮かびました。


『シャドーハウスという館は人間が作ったのではないだろうか?』


この仮説における“館”というのは、シャドーと生き人形が暮らす建物を指します。

要するに、現在のシャドーハウスのシステムを作り上げたのは誰かという点はさておき、おじい様と共にある棟や星つきの居住塔は、そもそも人間が作ったと考えることもできるんじゃないかと思ったんですよね。


なぜそんな考えに至ったかといいますと、それは前述したとおりです。

“偉大なるおじい様”が絶対の崇拝対象であるシャドーハウスにおいて、人間の信仰する宗教のシンボルなど必要ないからです。シャドーと生き人形にとって「王」「生みの親」「創造主」は偉大なるおじい様を除いて他にないのです。

むしろ、一体化によって人を超えた存在になることを目指すシャドーハウスにとって、人間の宗教は邪魔といっても良いくらいでしょう。


ならば考えられるのは、2つしかありません。

<仮説①>
シャドーハウスの建物は偉大なるおじい様や重鎮が人間に命じて作らせたが、「貴族の真似事」をするためにできるだけ人間の貴族の館の様式を取り入れた。

<仮説②>
偉大なるおじい様や重鎮達が存在するよりも以前から、館の建物自体は存在していた。



この2つを並べて見ると、私は後者の方があり得ると思います。人間の貴族の館の様式を真似するとはいえ、やはり人間の宗教のシンボルをわざわざ装飾に加えるとは考えにくいからです。

もちろん、偉大なるおじい様や重鎮が人間の習俗に無知だったと仮定すれば、洒落たデザインだと勘違いした可能性も否定できません。

ただ第89話でエドワードは、大人になれば外に出る機会が多くなると語っています。そうすると、人間世界について知る機会は少なくないでしょうし、人間の生活において宗教や信仰が果たす役割が小さくないことに偉大なるおじい様も重鎮も気付いていることでしょう。

そう考えると、我々が“シャドーハウス”と呼ぶ建物はシャドーが住む前からあると考えた方が自然な気がします。


ところで、本当に第90話の窓や屋根の装飾が“十字架”なのかというそもそもの疑問があるかと思われますが、それについては現実世界の建物でも見受けられます。

次の三枚の写真は青森県弘前市の弘前カトリック教会ですが、ロマネスク様式の本教会の中央には十字架を象った窓があります。
(裏から見るとステンドグラスになっていて綺麗!!)

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DSCN0335-3

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現実にもこういった装飾を持つ教会は多いですし、シャドーハウスで描かれている十字の窓がキリスト教と関係がないとは言い切れないでしょう。

ちなみに前記事で星つきの居住塔のデザインが変わったと書きましたが、そのうちの一つが門の脇の十字の窓でした。それも考慮すると、何か重要な伏線のようにも見えてきます。


そしてそれを念頭に1巻から読み返すと、幾つか引っ掛かるシーンも見えてきました。

例えば、第3話や第20話で描かれている隠し扉ですが、これらはシャドー家に必要のない機能だと思います。

ではなぜこんな構造を持っているのかと考えると、人間がこの館に住んでいた頃に、外敵から一族を守るために作ったのではないでしょうか?

または、当時からモーフ=シャドーの襲撃を警戒して館を改造したとも想像できます。すす能力を持つシャドーと闘うためにこんな隠し扉を作ったとすれば納得です。

ひょっとしたら第19話で矢が飛んできた廊下も、玄関前の崖を突破してきた敵を迎撃するためのものだったのではないでしょうか。
(中から逃げる者を阻止するのであれば、扉の先は崖なのですから矢は必要ない筈です)


他にも、第54話でローズマリー班が担当(押し付けられてた?)していた空き部屋も謎ですよね。

村から“生き人形”を定期的に補充しているということは、計画的に館の人数を調整していると思われます。にも拘らず、なぜ長期間使われていない部屋があるのでしょうか。

シャドーハウスが現在のシステムを獲得した後に建てられたのであれば、必要のない部屋数を用意するのは不自然です。即ち、シャドーハウスを運用する前提で館が建てられたわけではないことを示しているといえるでしょう。


以上の描写から、シャドーハウスの建物は遥か以前に人間が建てたと私は推測します。


しかし、そんな風にやっと新たな結論を導き出した途端に、それをひっくり返す出来事が起こりました。

第106話でケイトが明かした「ミラーハウス」です。

「ミラーハウスを取り戻す」と語ったケイトでしたが、この「ミラーハウス」という一族或いは館がどんな存在だったかによって、これまで述べてきた私の仮説は全く違う方向から考え直す必要が出てきました。


ミラーハウスとは現在のシャドーハウスと同じ場所なのか、
ミラーハウスは全く別の場所にあったのか、
ミラーハウスの住人は追い払われたのか、
ミラーハウスの住人は今もシャドーハウスにいるのか、
ミラーハウスと人間の関係はどうだったのか、
ミラーハウスでも人間を従えていたのか、
ミラーハウスの住人の容姿はどうだったのか、
ミラーハウスとモーフはどんな風に生活していたのか、
ミラーハウスの住人は今も健在なのか、
ミラーハウスの生き残りはケイトしかいないのか
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いや~、全然分からなくなってきました!
これじゃ「シャドーハウスってなんなのでしょうか?」じゃなくて「ミラーハウスってなんなのでしょうか?」だよ!!

こうなったら26日の連載再開時に題名が「ミラーハウス」に変わっていても全然驚きませんよ。(いくらソウマトウ先生が実験好きでもそこまではしないと思いますが)


まあそれはそれとして話を戻しましょう。

いずれにせよ、シャドーハウスと人間の関わりは良いか悪いかは別としてかなり密接です。強固といっても良いでしょう。シャドーはもとより、人間もすす炭に依存している現状では、互いの存在なくしては双方が存続できない状況です。

だとすれば、シャドーハウスの成り立ちに人間が関わっていないとは言い切れないと思います。


どのような経緯であの館が出来上がったのか。

もしシャドー一族が出現する前からそこにあるのだとしたら、どれほど凄惨な歴史を見てきたのかと想像するだけで背筋が凍ります。