シャドーハウスの3周年記念日が近づいていますね。
来週の月曜日、9月6日が連載開始日です。

今年は何も準備していないので正直どうしようかと悩んでいるのですが、とりあえず恒例の年表だけは完成させたいなと思っております。(1,2年目と違い今年の年表はかなり長いです)


ところでシャドーハウスは来週に満3年を迎えるわけですが、今現在は「3年目」です。

ちょっとややこしいですが「○年目」と「満○年」は1年ズレがあるんですよね。時々ごちゃごちゃになってしまい「え~と、確か2018年連載開始だから……3年目!」みたいに逡巡することしばしばです。我ながらもうちょっと頭の中を整理しなさいと思いますね。

しかし、1年のズレがある数え方で最も有名なのは「数え年」ではないでしょうか?

生まれた時点で1歳、以降は正月を迎えるごとに1歳ずつ加算していくという、昔の年齢表記法です。

現代でも厄年を確認するために使われることもありますね。何気にまだまだ身近な旧習慣の一つです。


さて「数え年」についてですが、なぜ生まれた時点で「1歳」とするのかについては幾つか説があります。例えば、よく挙げられるのは物を数えるにあたって「1,2,3,…」と数えるのに、年齢だけ「0,1,2,3,…」と数えるのはおかしいという考え方です。

言われてみれば分かる気がします。西暦もA.D.1年~A.D.100年が「1世紀」ですものね。(そういえば2000年当時、ミレニアム=21世紀開始と勘違いしている人が多かったのを覚えています。これを知る人も、もういい歳になってしまいました。)


そしてもう一つ挙げられるのが、胎内で十月十日過ごしているのだから生まれた時点で「1歳」である、という考え方です。こちらの説の方がご存知という方も多いかも知れませんね。


ただ、もしも仮にです。

もしも母体に何らかのトラブルがあり、胎児が予定通り産まれなかったとしたらその場合はどうなるのでしょうか。

この件について最も有名なのは応神天皇の母・神功皇后かと思います。学のある方なら三韓征伐のエピソードがすぐに浮かんだことでしょう。

しかし、私は全く別の例が頭に浮かびました。

ブラックジャックの“ピノコ”です。

ネタバレになってしまうのですが、天才外科医・ブラックジャックの助手を務める彼女は、実は姉の奇形腫瘍として生まれました。その腫瘍内に残されていた手足や頭部を繋ぎ合わせて蘇らせたのがピノコです。

つまり、彼女は姉と双子だったということです。

しかし本人は、17年間腫瘍内にいたのだから自分は17歳だと言って聞きません。幼女のピノコがそんな風に背伸びする姿もブラックジャックの魅力の一つですが、先程の「数え年」の論理で言えばその通りなわけです。

改めて、生き物にとっての“命”とは何かについて深く考えさせられる作品です。


さて、ここでブラックジャックに触れたのは、ただ単に私の好きな作品だからという訳ではありません。誤解を恐れずに言うと、巨匠が手掛けた作品よりも奇異な出来事が、数十年前のミラーサイドで起きていました。


「…ケイト、何を知っているんだ?」


またもミスリードを誘った、第68話でのローブシャドーとの論戦。

この時にジョンが発した言葉が脳裏に響きます。



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第107話は、どこかで見たことのあるシーンから始まりました。

第1話の1ページ目です。

薄暗かったシャドーハウスに対し、陽光が振り注ぐ明るい屋敷。
これこそが“ミラーハウス”でした。


ところが、ページをめくると全く様相が異なります。

第1話では鮮やかに彩られたシメントリーな二人の少女が並んでいましたが、第107話では少女が一人だけ、それも顔を背けて立っています。

影を伴って立つ孤独な少女。

それは、これから始まる物語から遠い年月が流れた、とある日の光景でした。


今回のお話はある侍女の回想によって語られます。

その侍女はミラーハウスで働く若い女性でした。
侍女は冒頭、主人のことをこう評しています。


「キャサリン様はとてもお優しい方でした」


これまで多くの方が疑問に思ってきた「ケイト」の名ですが、その全てといっていい位指摘されていたのが「ケイトはキャサリンの略称である」という事実でした。シャドーハウスにおいて、大抵主人の名前が本名、生き人形は略称とされている中で、主人公コンビだけが特異な名を持っていたからです。

これはルイーズが第23話で明かして以降、誰もが不思議に思っていた謎です。

そんな重大なキーといえる名前がここで登場しました。その謎の一つが明かされるのではないかと思うと、自然と胸が高鳴ってきます。


侍女は続けて、キャサリンが懐妊したという喜ばしい出来事について触れました。

ベットで横になるキャサリンの傍らにいるのは、彼女の相手でしょうか。しっかりとした装いのこの男性は優しくキャサリンの手を握っていました。

そんな慶事に、館中は幸せに包まれたといいます。
侍女も早速その知らせを聞くと、使用人仲間たちと喜びを分かち合いました。

和気藹々とした館内は、まさに冒頭で侍女が語った通り「理想の場所」です。


しかし、ミラーハウスの明るい日々はここまででした。

キャサリンの懐妊祝いにと献上された珍妙な「妖精」
それはモーフでした。

ミラーハウスの住人は主従区別なくこの「妖精」を興味深そうに眺めています。その時の様子を振り返った侍女は、皆が驚いたと語りました。


ところがその日を境に、館に不穏な気配が立ち込めます。
原因不明の病気が流行り出したからです。

何人も病に倒れ、中には命を落とす者もいました。

ミラー家もこの奇病の原因の究明に動いたものの、解決する様子は見えません。

キャサリンの従者である侍女は、ただひたすらに母子の安寧を祈るしかありませんでした。


そして不穏な気配は、突然の悲劇へと形を変えました。

なぜか1匹しかいなかったモーフが、いつの間にか数を増やして住人を襲撃したのです。

モーフの集団が次々と館の住人を襲うのを見て、侍女はキャサリンを外に連れ出しました。

大の大人が太刀打ちできないのであれば、妊婦のキャサリンにできることなどありません。侍女は主人を救うべく馬車を操り、外へと駆け出ました。


この時侍女は、興味深い証言をしています。

「あれはきっと誰かが起こした事件…」

この時彼女の目には、モーフと行動を共にする何者かの姿が写っていました。


ですがこの時の侍女にとって重要なのは、犯人探しではありませんでした。優先すべきは主人の、そしてお腹の子です。

白馬、或いは葦毛の馬に運命を託してキャサリンと共に館を脱出します。


余談ですが、競争馬の速さは時速60㎞になるといいます。対して人間の全速力は、100m競争で時速40㎞程度です。

もっともこの時侍女が乗った馬車は競走馬ではない上に、人間二人を載せているのでもう少し速度は劣るでしょう。

しかし、普通に考えれば二足歩行の生物が追いつけるはずもありません。ましてやモーフは人間よりも遥かに小さいのです。この時点でほぼ確実に難を逃れることができた筈でした。


ところが悪いことは立て続けに起こるもので、あろうことかモーフは馬車に追いつくとキャサリンを襲撃しました。

モーフとこびりつきに違いがあるのか不明ですが、窓を突き破る剛健さと人間を襲う姿は、まるで第64話でジェレマイアが話していた「密度3」(またはそれ以上)の「“顔”を欲している」という、こびりつきを想起します。

これほどまでに統一された行動が誰によって指揮されたのかは知る由もありませんが、とにかく非常事態です。

侍女はすぐさま馬を止めると、繭に包まれたキャサリンを救出しました。

直後のキャサリンの表情を見る限りでは、第71話のような「一体化」は避けられたと思われます。この時のモーフが何をするつもりだったのかは不明ですが、いずれにせよ愉快なことではないでしょう。

侍女は再び馬車を走らせると、いつの間にか麓まで下りて来ていました。ここまでくれば流石に安全です。侍女もそう思ったのか速度を緩め、土埃を立てないよう、何よりキャサリンとお腹の子を気遣いながら森を進んでいきました。


ただ、ここで問題が発生します。ミラーハウスに戻れない以上、これからどこかへ行かなければならないからです。

侍女が思い付いたのは、自分の実家のある集落です。ミラーサイドにいては、いつモーフに見つかるか分かりません。

なるべく遠く、遠くへと。

岸辺につくと馬を放し、今度はボートで海へと漕ぎ出しました。

この時侍女は、あまりの出来事にキャサリンを守ることに手一杯で、他に助かった者がいるのか分からないと言いました。確かにその通り、周りには自分達を除いて誰もいません。

主従二人の逃避行が始まりました。


この時のキャサリンは、侍女から見ると毅然としていたと言います。

身重にも拘らず、背筋を伸ばしてじっと侍女の漕ぐボートに身を委ねました。


しかし、悲劇はまだ終わっていませんでした。
既にキャサリンの身体はモーフの毒牙に侵されていたからです。

口を真一文字に結んだキャサリンの表情。

彼女の気丈さと意志の強さを感じさせますが、その首元には絶望的な黒い痕が広がっていました。


その黒い痕はやがてキャサリンの全身へと及び、集落へと辿り着く前に彼女の肌は真っ黒に覆われます。

侍女はこの時のキャサリンはまるでモーフのようだったと語ります。それは同時に、我々にはシャドーを思わせる姿でした。


ただキャサリンは、モーフともシャドーとも異なる点がありました。
侍女が幾ら声を掛けても全く動かなくなってしまったのです。

顔がない、声もない、動かない……。

もはや命さえもないことを察した侍女は、お腹の子ももう駄目だと覚悟しました。


しかし、一筋の希望がありました。

なんとこの状況になってもキャサリンは生きていたのです。

キャサリンの脈を確かめた侍女は、集落に連れていけないのならと、とっておきの場所へとキャサリンを運びました。


そこは海の見える小屋。

洞窟の先に進んだ二人を待っていたのは、かつての侍女の祖母の家でした。


ミラーハウスを遠くに見ることのできるこの地で、侍女はモーフが追ってくる恐怖に怯えながらキャサリンを匿い続けたといいます。

暫く経つと、モーフが現れたという噂さえ周囲から聞こえてこないことに安堵したようですが、それでもミラー家には戻ろうと思わなかったそうです。

その間にミラーハウスの周りはどんどん薄気味悪い空に覆われていきました。


キャサリンの介抱を続けていくうちに、侍女はあることに気が付きました。

なんと、キャサリンのお腹が膨れているというのです。

もしもこれが宿した命の成長だとしたら、奇跡としか呼べません。キャサリンの意志の強さが手繰り寄せた奇跡です。


ただ侍女は、同時に恐ろしさを感じたとのことです。


あの妖精が産まれるのではないか—


そう感じながらも、侍女は毎日キャサリンのお世話を続けました。

その間、お腹は本当にゆっくりゆっくりと膨らんできていました。


そして幾年が経ったでしょうか。
その日は突然やってきました。

老いた侍女は小屋の扉を開けると、その光景に驚愕します。

彼女の視線の先には、赤ん坊の姿がありました。
ついにキャサリンの子が生まれたのです。


侍女は赤ん坊を抱くと、その顔をじっと見つめます。

キャサリンの忘れ形見。

主人の愛称から、侍女はその子を「ケイト」と名付け、孫として育てることとしました。


忌まわしい事件から50年。

気の遠くなるような時間が過ぎていました。