シャドーハウスを読み始めてからというもの、毎回最新話が更新されるたびに感情を揺すぶらせながら読み耽っていますが、200話を超えてくるとエピソードごとの印象の違いも当然出てきます。

個人的な評価になりますが、序盤で言えば第7話と第11話は特に印象に残っているエピソードです。

第7話はミアが初めて登場した回です。第6話まで登場人物はケイトとエミリコのみでしたが、ミアが姿を見せたことで、部屋の外にも他者が存在しているということがはっきりと認識できました。

第11話はサラが初めて登場した回です。意図せぬ事故によって部屋の外に出てしまったケイトとエミリコは、偶然出会ったサラから「シャドー」「顔」についての情報を得ます。

読者にとってみても、第10話まで描写されてきた「顔」「生き人形」とは一体何なのかという謎について、断片的ながらも開示されたエピソードでした。


以上に挙げた二つのエピソードは、いずれもシャドーハウスという物語において、作中の世界が一気に広がったエピソードといえましょう。

第6話までのケイトとエミリコの二人だけの物語が、第7話でミアが登場したことで様々なキャラクターが描かれるようになり、第11話でサラからシャドーハウスのルールについて発言があったことで、ケイトの部屋だけではなく、館全体の描写が次々と描かれるようになったからです。

そうしたターニングポイントとなるエピソードだったからこそ、第7話と第11話は印象深かったのではないかなと、己の中で分析しています。


さて、そうすると「作中の世界が一気に広まった」という点において、他にも印象的なエピソードは幾つかあります。そして、それらの中で一つ挙げるとするならば、第28話「視線」を個人的に推したいと思います。

第28話については詳細を書くとネタバレになりますが、簡潔に説明すると、

「お披露目」の最中に檻に閉じ込められたケイトが、まるで見世物のようだと指摘したジョンの発言をきっかけに、「お披露目」という名の儀式なのだから誰かに見られていると勘付いた。

ケイトの勘は当たっており、エドワードが企画した「お披露目」は正体不明の5名の人物たちによって注視されており、文字通りこの儀式は「お披露目」であった。

という回です。

今でも覚えているのですが、私はこのエピソードを読んだ時「やっぱり『お披露目』は『お披露目だった』!」「このいかにも偉そうな面々は何!?」と驚いていました。

何と言っても当時は、ケイトを含めた新人たち5対と、“特別な生き人形”エドワードくらいしかキャラクターが描かれていませんでしたからね。それ以外に名前が明かされていたのはサラとミア、ローズマリーとバービーくらいでした。そんな中で、これまでとは明らかに年齢層が異なる人物たちが現れたのですから衝撃を受けないはずがありません。

あの正体不明の5名は、偉大なるおじい様を除いて「重鎮」と呼ばれる階級だと後に明かされました。第28話もまた、情報が断片的ながらも明かされることで世界観が広がったエピソードといえましょう。その後も、「重鎮」について少しづつ描かれることで、その役回りや人物像、個性が徐々に明かされていきました。


そして今回、とある「重鎮」の存在がクローズアップされることとなります。

その名はジョゼフ。

これまでシルエットに隠されてきた重要人物の素顔が遂に語られました。
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ちょっと時間がないので手短に書きますが、今回の第219話の肝は、ジョゼフから語られたミラーハウス時代でしょう。

言わば、エミリー視点からミラーハウス時代が語られた第107話、アルフレッド視点からミラーハウス時代が語られた第198話と比較対象になるエピソードだったと思います。

その観点から見ると、今回のジョゼフの発言からミラーハウスはどんな場所だったのか、60年前のモーフ襲撃事件はどのような出来事だったのか大体分かってきましたね。

エミリー・アルフレッド・ジョゼフから語られた情報を抜き出すと、ざっとこんなところです。

事柄(証言者)
①昔、島の外では戦争があった(アルフレッド・ジョゼフ)
➁ミラー家は没落していた(アルフレッド・ジョゼフ)
③キャサリンという女性がいた(三人共通)
※アルフレッドと婚姻関係にあるというのはアルフレッドの独白のみなので一応こう書いておきます。
➃ジョゼフはモーフを研究していた(アルフレッド・ジョゼフ)
⑤キャサリンにモーフが献上された(エミリー・ジョゼフ)
➅ミラーハウスで原因不明の病気が流行る(エミリー・アルフレッド)
⑦モーフが突然暴れだし、館は乗っ取られた(三人共通)
➇事件の発端はジョゼフ(アルフレッド・ジョゼフ)
※ジョゼフは「後悔」と表現
⑨事件を起こしたとみられる人物がモーフと共に行動していた(エミリー)
⑩キャサリンはエミリーと逃走(エミリー)
※アルフレッドはモーフに襲撃されるキャサリンの馬車を目撃
⑪ジョゼフは娘をアルフレッドに託す(アルフレッド・ジョゼフ)
⑫キャサリンはエミリーと島外へ行くもののモーフに乗っ取られる(エミリー)
※後にケイトを出産
⑬アルフレッドはコールマインに潜伏、ミラーファミリー結成(アルフレッド)
※後にジョゼフの娘と結婚、アンソニー誕生
⑭館に残ったジョゼフはモーフに乗っ取られたまま今に至る(ジョゼフ)


おおっ!こう書いていくと大体の顛末が見えてきましたね!

加えて、モーフ襲撃事件の混乱具合も三者の証言から状況が伺えます。

キャサリンを助けるために必死だったエミリー、当主という地位だったが故に速やかに身の安全が優先されたアルフレッド(恐らく)、事件の発端となってしまったものの娘だけは助けようとアルフレッドに託したジョゼフ。

三者三様のあらましが各エピソードで描かれました。いかにモーフの襲撃が突発的だったのか、手にとるように分かります。


しかしその反面、詳細に見ていくと少し気になるところも出てきました。

特に気になるのが、エミリーの独白で語られていた「あれはきっと誰かが起こした事件」「モーフとともに逃げる者を追う人影を見たからです」の部分です。(上一覧の⑨)

三人の証言を眺めてみると、このエミリーが見た人影だけが何だか浮いて見えるんですよね。

事件の発端がジョゼフという点はアルフレッド・ジョゼフ両人とも共通してはいますが、事件当時ジョゼフは娘をアルフレッドに託すため建物の中にいました。するとエミリーが目撃した人影はジョゼフとは考えにくいです。

ジョゼフが建物の中にいた時間と、モーフと共に行動していた時間が異なるとしたら、一応はジョゼフ=エミリーが目撃した人影である可能性はあるかも知れませんが、アルフレッドの独白から推測するとそれは考えにくいです。


とすれば、モーフ襲撃事件の真犯人或いは真相は、これまで描かれてたエミリー・アルフレッド・エミリーの証言の範囲外か、またはその裏に隠されているのだと思います。

ソウマトウ先生は過去作の「黒」について、「信頼できない語り手」という手法を用いたと述べられていたことがあります。

詳細を書くと「黒」のネタバレになりますので濁しますが、ざっくり言うと「ミスリード」「叙述トリック」の一種です。恐らく上記の三者の証言にはまだ語られていない事実があるということです。

さらにいえば、ジョゼフ自身が本当のことを言っているのかだって怪しいものです。


ケイトは、自らの身体を取り戻す手掛かりを見つけたかに思えますが、本当に目の前の人物が信用に足るかどうか。

まずは冷静にそれを見極めて欲しいです。