「火」というものは不思議なものです。

本来は生命を脅かす存在であるにも関わらず、それを見ていると心安らぐという人も多いそうです。

焚き火や蝋燭の炎にリラックス効果があることは実験データからも証明されています。
炎を被験者に見せると脳からアルファ波(癒し効果が得られた時に発せられる脳波)が検出されるそうですが、これは炎の「揺らぎ」が癒しに作用するホルモンを分泌させることが理由として考えられています。

ただもう少し踏み込んで考えてみますと、なぜ火を見ると癒し効果を持つホルモンが分泌されるのかは疑問です。
(被験者が火に対してトラウマを持っている場合は当然除いてです)

これについては、
「太古の人類は外敵に怯えて暮らしていたが、火を手に入れたことによって外敵からの襲撃に警戒する必要がなくなった。だから火を見ると心が落ち着くのだ」
という説明がよくなされます。

その記憶が遺伝子に組み込まれており、だから現代の人間も炎を見ると無意識に安らぎを覚えるのだそうです。


しかしそれに加えて、私はもう一つ理由があると思います。

それは、火の番をしていた仲間がいたという記憶。
それもセットになっているのではないかという仮説です。

フランツ・カフカの「夜に」という短編に、夜の間でも誰かが火の見張り番をしなくてはならない、という描写があります。

いくら野生動物が火を怖がるからと言っても、それを放っておくわけにはいきません。
そこには必ず火の番をする者がいた筈です。

そうすると、眠りについている間でも生命を委ねられる仲間=信頼できる存在がいた、という朧げな記憶も、もしかしたら人間の深層心理の中に残っているのではないでしょうか。


今回のお話では、暖炉の火を一緒に眺める同期4人の姿がありました。

火を見つめながら各々が考えていたこと。

あの短い時間を共有したことこそが、ケイトが何よりも求めていたものだったのかも知れません。
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怪しげな格好で階段を降りていくケイト。行き先はエミリコの部屋です。
同期会発足のため、いざエミリコの部屋から脱出を試みます。

早速オリバーから入手した鍵と「遠方鍵伸ばし棒」を用いて、扉を開錠するエミリコ。
新アイテムを駆使して、あっという間に扉を開けることに成功しました。

第一関門を突破し、思わずハイタッチする二人が微笑ましいです。
軽率だったと少し慌てるエミリコでしたが、ケイトから煤が出ていないので特に問題はありません。

ケイトの「楽しい気分だわ」という言葉も本心からでしょう。

先程の「遠方鍵伸ばし棒」を取り出すシーンもそうですが、とにかく何にしてもエミリコはいつも楽しそうです。
そういえば庭園迷路でラムと合流した直後も、エミリコは地図に鉛筆で書き込みながら「なんか楽しいですね」と言っていましたね。

どんな状況でも、エミリコには楽しみを見出すことの出来る才能があるのでしょう。
それが心の余裕と広い視点を生み、やがて起死回生の逆転打を放つ要因になっているのかも知れません。

不安に陥ると、人はとかく暗くなりがちです。
しかし苦境下においても明るく前を向き、そして打開策を探し出すエミリコの姿勢には大いに学ぶべきことがあると思います。
私も彼女の良さを少しでも見習えるよう、心掛けたいです。


今回の同期会はシャドーのみで、エミリコはお留守番です。

大勢でいると見つかりやすくなる、というのが理由ですが、恐らくケイトは生き人形からシャドーが影響を受けるのを懸念したのだと思います。
冷静沈着なケイトにはいつも驚かされます。常に先を読む彼女に、見守る我々も安心です。


しかし問題は、残りの三人です。

夕食時にケイトはルイーズ、ジョンはパトリックにそれぞれ深夜に会う約束を取り付けます。

夕食は集団形式である、という新情報がここでもたらされましたが、それはともかくとしてのっけからこの約束は反故にされます。


同期会をするにあたって、ケイトからの相談に対し同期会場を即答するジョン。

その場所に辿り着いたケイトが見たのは、なんと取っ組み合いをするジョンとパトリックの姿でした。

貴族とは思えない姿を晒す二人に驚愕するケイト。
ジョンに全ての経緯を話すよう求めましたが、そもそもパトリックと約束を取り付けずにいたジョンに呆れかえります。

「元々ジョンの選択肢に強行突破以外無かった…!」と嘆くケイトですが、パトリックの睡眠用の帽子が落ちているので、正真正銘の強行突破だったようです。

シャドーの部屋には鍵がないことは第53話で明かされていますので、問答無用でジョンはパトリックの部屋に入ったことになります。パトリックの反応も致仕方ないでしょう。


そしてもう一つの誤算が、ルイーズも来ていなかったことです。
流石に女の子の部屋にジョンを行かせるわけにはいきませんので、ケイト自らが迎えに行きました。

暫くして、ようやくネグリジェ、ではなくケイトと同じ格好で入室するルイーズ。

ぐだぐだなまま第1回同期会は、こうして開催されました。


しかし集まったものの、眠そうなルイーズにしかめっ面のパトリック。

一応深夜の集まりを楽しみにしていたルイーズは良いとして、寝ようとしていたところを起こされたパトリックが怒るのは無理ありません。状況は最悪と言っても良いでしょう。


しかし、ここでジョンは勝手知ったるとばかりにパトリックの部屋について語り出しました。

実は、ジョンは一度だけパトリックの部屋に来たことがあったらしく、部屋の模様替えをしていたことを既に知っていました。

前回リディアは、お披露目後の家具や服・壁紙・香水は申請すれば変更ができると語っていました。
早速その情報がここで活きてきました。

いそいそとカタログを見ながらテーブルを選んでいたかと思うと、パトリックが可愛く見えてきますね。
それを知ってか知らずか、弄るジョンとルイーズ。これだけ見ているともうみんな仲良しな気がしてきますね。


しかし同期会の本当の目的は違います。
パトリックの怒り(?)の反撃をきっかけに、ケイトは本題に入ります。


「亡霊騒ぎは解決していない?」


先日のバーバラの発表を真に受けていたのでしょう。パトリックは半信半疑です。

それに対し、理路整然と説明を進めるケイト。冗談じゃないと怒るパトリックにメリットを挙げながら、なんとか協力を取り付けようとします。


ですが、なかなかジョンのようにはいきません。

洗脳のせいでしょうか?興味を失くしているルイーズと不信感を抱くパトリックに、ケイトは焦りを隠せません。煤を出しながら説得をしようと必死です。


ところが、ルイーズの発言をきっかけにケイトは致命的な事実に気が付きます。

それは、ケイトの提案は独りよがりであり、パトリックとルイーズが乗り気でないのは洗脳のせいではないという事でした。


エミリコのことを思い出し、話が通じないのは自分自身に問題があるのだと思い至ったケイト。
どうすればいいか思案します。


そんなケイトの目に映ったのは、ジョンが出す煤でした。

いきなり叫びながら、奇行と思える行動をするケイト。
それを見て、ジョンはケイトがおかしくなったと大慌てです。
更に一人で恥ずかしがるジョンに、冷たくツッコミを入れるパトリック。


ですがこれ、ケイトにとってはおなじみのすすだるまです。
第4話で何となく作っていたすすだるまが、ここで大活躍をします。

普通思いもよらぬ、ケイトのお遊び。
あまりにも突然過ぎて付いていけない3人でしたが、ケイトの提案にジョンとルイーズは興味津々です。

やがてその遊戯にパトリックも加わり、みんな大はしゃぎです。
しかも煤の性質の違いによって手触りが違うらしく、理科の実験のように4人は試行錯誤しながら最高のすすだるまを作っていきます。

ここで自分の煤とパトリックの煤を混ぜようとするルイーズが可愛いですね。
あれだけお披露目で「でも残念お断りっ」と言っていたのに、そんなこと忘れているかのようです。

前回ラストでケイトが考えていた「悪意はない 裏表もない」というルイーズへの推測は間違っていませんでした。この時点で、同期会の成功はほぼ約束されたと言っても良いでしょう。


そしてこの後、4人の結束が固まる決定的な時間が訪れます。


ルイーズが作った、こびりつきのすすだるま。

それを見て、動き出したらどうするんだと叫ぶジョンとパトリックでしたが、それに対しケイトは「知らない?」と語り掛けます。


エミリコから教えて貰った、煤を固定する秘密の方法。
それは煤を火にかざす、というものでした。


暖炉の前に4人が作ったすすだるまを置くと、暫しの間そこには静寂が訪れました。

無言で火を見つめる、パトリックとルイーズとケイトとジョン。

この時4人の間で会話がなされたかは分かりませんが、燃え上がる炎と固まっていくすすだるまを見る彼らの後ろ姿に、少し感動を覚えました。


そして同時に、ここに4人しかいないという事実に寂しさもつのります。


数刻後に焼きあがった、すすだるま。
3人に対し感謝の言葉を述べるケイトの前には、五つのすすだるまがありました。

こびりつき型のはルイーズが、ケイト型のはジョンが、髑髏型のはパトリックが作ったものです。

そして、ケイトが作ったのは普通のすすだるまと、リボン型のものでした。

それに気づいたのは、何の因果かお披露目の際にシャーリーと接触のあったリッキーの主人・パトリックでした。
そして答えに気付いたのは、ラムと行動を共にしたジョンです。


同期しかいない部屋で、お披露目後に初めて語られたシャーリーの名。


『同期会』

本来であれば、ここには5人いなければなりませんでした。
しかし残念ながら、シャーリーの姿はこの部屋にはありません。

そして何よりも切ないのが、彼女が辿った運命をケイト達が知らないことです。
ケイトはいつか出会う日のために、リボン型のすすだるまをそっと持ち帰りました。


しかしここで、シャーリーの存在は大きな役割を果たします。


思えば、ケイトが自身の間違いを認め、エミリコの笑顔によって正しい道を歩むというエピソードはこれが初めてではありません。

第2巻のラストを飾った、あの第24話。

あの時もケイトは、黒く渦巻く自身の欲望に道を誤りそうになりましたが、エミリコによって間違いを犯さずに済みました。

ですが、そのきっかけとなったのは直前のラムの「ありがとう」という仕草でした。


ケイトの運命を変えた、一人の生き人形。
今度はその主人がケイトを見えない形で手助けすることになります。


ケイトが持つリボン型のすすだるまを見て、かつての同期に思いを馳せる3人。

ジョン、パトリック、ルイーズの胸には様々な思いが去来したと思います。

その脇を通りながら颯爽と歩くケイトの横顔は、以前に「シャドーとしての正しさをわたしは求めていたわけじゃない」と語っていた時と似ています。
いや、少しだけ上を向いているのはケイトが成長した証かも知れません。


その姿を見て、パトリックはケイトを引き留めました。

ややぶっきらぼうながらも、次回の同期会に向けて何かできないかと語り掛けるパトリック。
ルイーズも嬉しそうな横顔で、協力を申し出ました。


求めるばかりでは何も得ることができません。
ケイトは、エミリコとシャーリーに思いを寄せることによって、自らが与える側として願いを成就させることに成功しました。


パトリックの掛け声によって誓われた「同期の絆」。

完成したすすだるまよりも固い『五人』の絆は、きっとこの館の悪意を粉砕するには十分でしょう。


新たな仲間を得て、ケイトの闘いはこれからも続きます!