シャドーハウスのサブタイトルは、魅力的なものが数多いです。

私は第57話の「破鏡不照」が好きですね。
初めて聞く言葉でしたが、調べてみると深い意味があり勉強になりました。

また、後々の展開からこの第57話を読んでみると、確かにこのエピソードは「後戻りのできない」要素が幾つも散りばめられていました。
名は体を表すとはよく言ったものです。


逆に、第43話の「最後の一対」は敢えてミスリードを誘う副題でした。

最後まで読み終えた後、サブタイトルの本当の意味が分かった時は愕然としました。
あの時の衝撃は今も残っています。


以前ソウマトウ先生がツイッターで明かしていましたが、各話のサブタイトルは担当者の方が付けているとのことです。

現担当者の方は昨年4月から携わるようになったと聞きましたが、それでも以前と変わらない、それどころかより技巧を凝らしたサブタイトルの連続に、いつも楽しませてもらっています。


その反面、内容によってはどんな題名でも事足りる場合もあったりします。

第59話の「散策」はその好例でしょうか。
単行本や電子版では上記のタイトルでしたが、雑誌掲載時は「秘密基地」となっていました。どちらもなんとなく合っている気がしますね。

もっとも、我々が『どちらでもいいじゃないか』と感じるのは、この二つが最後の最後まで残っていた選択肢だからでしょう。でなければ、発売直後に訂正が入ったりはしない筈です。
恐らく、ギリギリまで迷ったが故でのミスでしょうから、いずれにせよエピソードを体現したタイトルになっていてもおかしくはありません。その意味では、第59話はサブタイトルが二つある稀有な回と言えそうです。


さて、そんな秀逸な副題が並ぶシャドーハウスですが、第91話は「ケイト」でした。

第1話で用いられていた「ケイトとエミリコ」という副題に似たタイトル。
私はこの題名を見た時、なぜこんな紛らわしい副題を付けたのかと困惑しました。普通、過去話と混同するような名付けは避けるべきと思うからです。


しかし今回のお話を読んだ後、その題名が示す意味に気付き戦慄しました。

その秘密を知った今では、これ以上のサブタイトルはなかっただろうと思います。


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第91話は、ゲーム画面のような図解から始まりました。


星つきの居住塔を目指すケイト組とジョン組。

迎え撃つ(?)のはスザンナ組と顔の見えない人形です。
(ベンジャミン組はルイーズ組とトレーニング中)

現在のところ、バーバラ組とオリバー組は塔外にいます。

前回のケイトはこの状況を「チャンス」とみて、渡り廊下を走っていました。


因みに前回走っていた渡り廊下は、メインハウスからウェストウィングへと繋がる廊下です。冒頭で触れた第59話に地図が載っているので、分かりにくいという方は見てみて下さい。単行本でいうと5巻です。
(エミリコは当時、屋上から渡り廊下の向こうにあるラボトリーを見つけたわけです。眼良すぎですね、羨ましい……。)

それと前回は触れませんでしたが、第90話の鳥観図と第59話の散策経路・第62話の星空デート(?)を併せて見ると、整合性のある描写に驚きます。エミリコ達が上った屋上への階段も描いてありますし、この辺りはまた別の記事で解説したいです。(※余力があれば、です)


さて、話を戻しましょう。

星つきの居住塔へと繋がる渡り廊下の入口に着いた、ケイトとエミリコ。
開幕早々「ドンッ」という恒例の効果音と共にジョンが登場しました。

ジョンが現れると何だか安心しますね。
前回のケイトの行動は不安だと書きましたが、こうなると何だかんだで今回の潜入も成功しそうな気がしてきます。

しかし肝心のケイトは、ジョンが付いて来ていることすら気が付いていませんでした。

まあケイトは全力疾走していましたし、ジョンが声を掛けたのはエミリコが通り過ぎてからですから仕方ないでしょう。

それにケイトは、今回の潜入にエミリコ以外の協力を仰ぐつもりはありませんでした。人数が多ければ多いほど見つかるリスクは大きくなるからです。この後ケイトも言っていますが、珈琲豆のすり替えが成功しても、事態が発覚するのは時間の問題です。ならば、星つきの居住塔に出入りする姿を目撃されることは避けたいところです。よって、騒がしいジョンを呼ぶつもりは、ケイトには毛頭ありませんでした。


ところが、今回の潜入は制限時間があります。前回言っていた通り、僅か30分です。いや、もう20分くらいしかないかも知れません。それをジョンとの夫婦喧嘩で費やすわけにはいきません。

紆余曲折ありましたが、ケイトは渋々ながらジョンの同行を認めました。
(ショーン単独だったら、ケイトは即決してそう……。)


ケイトの算段は以下の通りです。

・ルイーズの情報から珈琲保管室は1階にある可能性が高い。
↓
・しかし1階の通用口は鍵が閉まっている。
↓
・よって2階の渡り廊下から塔に入り1階へと行く。
↓
すり替え用の珈琲豆は保管庫にあると思われるので、それを使う。


以上が、潜入からすり替えまでの手順です。


ジョンが入口の呼び鈴を鳴らしそうになったり、物音を立てたのを顔の見えない人形に気付かれそうになるなど、ヒヤヒヤする場面をやり過ごしながら一行は進んでいきます。

これらの過程では、ケイトのすす能力と、ショーンの耳・鼻の良さが存分に発揮されました。
特にショーンは、途中で回り道を提案するなど機転の速さも見受けられました。ジョンとエミリコが体力班ならば、ケイトとショーンはさしずめ“頭脳班”といったところでしょうか。

そうこうしながら、無事1階へと辿り着くことができました。


しかしケイト達は珈琲豆保管庫とみられる部屋の前まで来たものの、足止めを余儀なくされます。
よりによって、室内でスザンナ組が珈琲を焙煎している真っ最中だったからです。

ケイトは折角ここまで来たのにと悔しがりました。


そんなケイトに、これまでやらかしの連続だったジョンが自信満々にある提案をしました。

それは、渡り廊下の入り口からジョンが呼び鈴を鳴らし、スザンナをおびき寄せようとする作戦です。

一瞬ケイトはその意図が読めずに「(馬鹿なのかしら…)」と煤を出しますが、ジョンはお構いなしです。おまけに、そもそも潜入云々の前からスザンナに会うつもりだったから大丈夫さ、とまっすぐな瞳でケイトを見つめました。(正確には、その瞳をしているのはショーンです)


ケイトはますますジョンの意図を計りかねますが、勢いに押されたのでしょう。

意気揚々と駆けていくジョンとショーンの後姿を見送りました。


さて、いよいよ作戦開始です。星つきの居住塔にベルの音が鳴り響きます。その音は何度も鳴らされました。

しかし暫くして、ケイトは失敗したと呟きました。よく考えてみれば、呼び鈴を鳴らしたところでスザンナが応対するとは限らないからです。塔には顔の見えない人形だっているのだから、彼らに任せればいい話です。エミリコもしまったという表情でケイトを見つめます。


ところが、やはりジョンはジョンでした。

ベルの音が鳴りやんだと思いきや、突如ジョンの大声が轟きます。
ジョンはスザンナの名を叫ぶことによって、彼女をおびき寄せようとしたのです。

あまりに突飛な行動にケイトは煤を出しますが、確かに方法はこれしかないでしょう。
ジョンの計算通り、スザンナ組が部屋から顔を出しました。ジョンの作戦は成功です。ケイトも力技ではあるものの、心の中でジョンを褒めました。


こうなったら、是が非でもケイトも作戦を成功させなければなりません。
エミリコはいざ部屋の前へと駆け出しました。


しかしケイトはとある「罠」に気付くと、エミリコをすす能力で制止しました。
扉の前には、スザンナのすす能力である「膜」が張られていたからです。

これは第50話でケイトが看破した、感触を持つというスザンナのすす能力です。これでは扉を開けることができません。またもやケイトは、行く手を阻まれました。

近づくことすらできない扉の前で、ケイトは拳を固めまるばかりです。


ですが、こんなところで諦めるわけにはいきません。先程のケイトの台詞ではないですが、ここまで辿り着いたのです。

ここで反転してはジョンの囮は台無しです。何としても、彼の戦術的勝利を戦略的勝利へと繋げなければなりません。


ここでとうとう、エミリコが口を開きました。

ケイトとショーン、ジョンの活躍があってここまで来ました。ならばここからは、我らが主人公・エミリコの見せ場です。エミリコは窓を指さすと、ケイトを説得してある行動に出ます。


「ケイト様なら出来ます!」


そう言い放ったエミリコの策は、なんとケイトのすす能力でロープを窓から窓へと渡し、そこをエミリコが通るという荒業でした。


てっきり私は、お披露目ラストでケイトが使っていた翼で飛ぶのかと思っていたので、予想外の行動に驚きました。
ただこれまでのエミリコの能力を考えれば、確かにエミリコならこれで十分目的を達成できます。曲芸のようにエミリコは一歩一歩前へと進んでいきました。


ところが、エミリコの潜在能力が発揮されたことで呼び覚まされたのか、はたまた外の景色を見たことで記憶が揺さぶられたのか、エミリコに異変が襲います。


ふと甦る朧げな風景。
右手の先には小さな器が置いてあります。
そこには、我々にとって見慣れた黒い液体が入っていました。

そして、何者かが告げるお祝いの言葉。

「おめでとう…ケイト」



そこまで思い出したところで、エミリコはよろめきます。

私もこの衝撃的なシーンを見た時、同じように眩暈がしました。第62話のショーンとの会話を裏付ける重大なシーンが、とうとうはっきりと描かれたからです。

これが物語の真相なのか、はたまたミスリードなのかどうかはまだ分かりません。しかしいずれにせよ、作品世界の根幹ともいえる秘密の一端が姿を見せました。あの不可解なサブタイトルは、この瞬間を示したものだったのです。


ただ、読者がその衝撃を受け止めかねている間にも時間は進んでいきます。

ケイトは階段を上ってくる足音に気付くと、エミリコに早く渡り切るよう伝えるため、窓辺から顔を出しました。


しかしケイトは、信じられない光景を目にします。

あのエミリコが、バランスを崩し足を踏み外したのです。

事ここに至り、ついに堪り兼ねたケイトから大量の煤が沸き上がりました。


背後に迫る危機、眼前の緊急事態。

果たしてケイトは、この窮地を脱することができるのでしょうか?

ピンチの後のチャンス、そして再びのピンチ。

タイムリミットは限りなくそこまで近づいています。