「絆」という言葉が頻繁に使われるようになってから、幾年か経ちました。

もともと「絆」とは「騎綱」または「木綱」からきた言葉で、馬などを繋ぎ止めておくことを意味していました。それがやがて、人と人を繋ぐ意味に変質し、そして現在の「絆」という言葉になったそうです。

馬繋がりではないですが、2013年に青鹿毛として初めて日本ダービーを制覇したキズナの名前も「絆」という言葉が由来です。

きっかけは牧場主の前田幸治氏が2011年にドバイ遠征していた際に、現地のホテルや競馬関係者から日本を思いやる声を多く掛けられたことに感銘を受け、牧場内で一番期待をかけていた馬に「キズナ」と名付けたとのことです。

期待通り「キズナ」は国内外のレースで活躍し、2015年に引退しました。

現在は種牡馬として北海道で過ごしており、その仔達もまた、多くの人々の夢を背負い今日も走っています。


さて、シャドーハウスという作品においても、「絆」という言葉は切っても切り離せません。

「シャドー」と「生き人形」

この二つの存在の関係性は、見ている者に自然と「絆」という言葉を想起させます。

現在放映されているアニメ第9話でも、主従同士の関係性に多くの方が称賛・歓喜の声を上げていました。事実、重鎮達はお披露目で躍動する新人達を評価するにあたって「絆」という言葉を用いています。


しかしシャドーハウスという館においては、その「絆」は余計なことです。
館の住人達の忠誠は、最終的には偉大なるおじい様のみに向けられるからです。

生き人形はシャドーへ、シャドーは偉大なるおじい様へ。

そんな一方通行の「絆」しか許されていないのです。


ところが、もしもそれ以外の形をした「絆」が生まれたとしたらどうなるでしょうか?

それは偉大なるおじい様を頂点とした支配体制への挑戦とみて、間違いないでしょう。

今回のエピソードでは、その萌芽となる誓いが改めて交わされました。


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前話、これまでの認識を揺るがす事実を告げられたルイーズとルウ、そしてパトリックとリッキー。

ケイトの話に真っ先に疑義を向けたのはパトリックでした。


「偉大なるおじい様に逆らうことになるぞ…!」


元々偉大なるおじい様への忠誠心が厚かったパトリック。

彼はお披露目の前夜、偉大なるおじい様から愛されることを望む発言をしていました。だからこそ当時、リッキー共々“星つき”の地位を渇望していたのです。

また、お披露目後の謁見では胸に手をやり、偉大なるおじい様を見上げるパトリックの姿が描かれていました。まるでそれは、感動のあまり言葉を失っているように見えました。

シャドーハウスに暮らす者なら当然持っている偉大なるおじい様への恐れと崇拝を、同期の中で一番持っていたのがパトリックだったのです。

むしろ、最初から敵愾心満載のケイトや、「なんで従うべきなんだっだっけ…?」と記憶からすっ飛んでいるジョンの方がイレギュラーと言えましょう。

エミリコに恋心抱いているのはともかくとして、パトリックは模範的なシャドーでいることに余念がありません。それはこれまでの描写から見れば明らかですし、そして今回も冒頭もその通りでした。


しかし、煤を出して苦悩するシャドーを前にして、もう一人苦悩する生き人形がいました。

リッキーです。

これまで主人が悩んでいるとすかさず導いていたリッキー。しかし今の彼にはその余裕はなく、無言で涙を流し始めました。


涙の理由は、安堵と戸惑いでした。

リッキーは泣きながらケイトの話は本当だと語ると、今朝の出来事を告白しました。自身が人間だと気付いたと言うのです。


意外な人物から驚くべき発言が出たことで、エミリコもショーンも口を開けて驚愕します。恐らく、こんなに早く洗脳から解ける生き人形が出現するとは思ってもみなかったのでしょう。ましてやそれがリッキーだったとは、想定外だったのが見て取れます。


ですが、たとえ犬猿の仲のショーンにそれを見られたとしても今は関係ありません。リッキーには何よりも、真正面から向き合わねばならぬ人物がいたからです。


リッキーは主人のパトリックに向き合うと、温室で懊悩したことを包み隠さずに話し始めました。


自分が人間であること、
突然のことに混乱したこと、
シャドーが敵ではないかと疑ったこと、
主人のことすら信じられなくなったこと……。

そして、最後の最後でパトリックが敵なわけがないと、思い直したこと。


伏し目がちに、全てを打ち明けました。


そのリッキーの告白を聞き、パトリックは拳を握りしめました。

きっとこの時のパトリックは、従者の悩みに気付いてやれなかったこと、一人で悩みを抱え込ませてしまったこと、その苦しみに寄り添うことができなかった後悔が渦巻いていたことでしょう。

パトリックは従者に向けるその想いを噛みしめると、今度はその手でリッキーの手を包み込みました。

「すまなかった」

そう言うと、一番大切なものを失うところだったとリッキーに伝えました。

一番ということは、偉大なるおじい様よりもリッキーの方が大事だということです。めでたく、パトリックとリッキーの洗脳も完全に解けました。

これまでの生活を通じて育まれた「絆」は、とても力強く、そしてとても美しいものでした。


そして、リッキーの告白に感謝するケイトと、パトリック達のやり取りに乗っかって肩を組むジョン組。

それらの光景も同じく、和やかなものでした。


しかし、それだけではもちろん終わりません。

パトリック達のやり取りから一呼吸置くと、いよいよケイトは館のシステムの核心部へと話を移しました。

核心部とは、シャドーと生き人形の「一体化」についてです。


まずその話をする前に、ケイトはマリーローズとローズマリーについて、栄光の廊下での本当の真実を語り始めました。なぜなら、ルイーズとパトリックには、亡霊事件の犯人がマリーローズ達だった、ということしか伝えていなかったからです。

ケイトは事の顛末を話すと、館からの脱走は無謀だとパトリックを説得します。


ところが、意外にもパトリックはそれを聞いてもなお、シャドーハウスから逃げようと叫びます。

シャドーの「処分」だけではなく、生き人形も犠牲になるとあれば、尚更こんなところにいてはならないというのが彼の意見でした。

それと同時に、恐らくリッキーのことを慮ったのでしょう。生き人形達の家族のことに言及すると、助けを求めれば良いじゃないかと、マリーローズ達は失敗しても五対いる自分達ならやれる筈だと、皆に語り掛けます。


それを聞いたケイトは、そんな単純な話ではないと反論しました。

外部との接触が一切絶たれたこの館ではどうしようもないと、五対以外のこどもたちはどうするんだと疑問をぶつけます。


「みんなを助けたい」「理想論」

これまで劇中では見たことのない論戦に、ケイトもパトリックも煤を出して議論は平行線となりました。



そんな険悪な雰囲気の中、全然違う角度から二人を見ていた人物がいました。

エミリコです。


実を言いますと、先程「劇中では見たことのない論戦」と書きましたが、それもその筈で、基本的にエミリコもジョンもショーンも、ケイトのやることに関しては特に反対をすることってないんですよね。

決してイエスマンというわけではないですが、ケイトが一番情報を持っているのだから、という信頼を三人とも暗黙のうちに持っていたように見えます。


しかし今回のパトリックは違いました。
ケイトに真っ向から議論をぶつけたからです。

それを見て、エミリコはこれまでの二対ではあり得なかった新しい可能性を予感したようです。

仲間が増えていくに従って、やれることが増えていった。今までの経験を通じて、それならこれからはもっと色々なことができるに違いないという確信を得たかのように、エミリコは大声を上げて笑いました。

そんなエミリコを見て、ケイトもパトリックもようやく論争をやめました。これからの方針については、これからゆっくり決めていけばいいのです。


マリーローズとローズマリーに思いを馳せて、ケイトが「絆」という言葉を口にすると、パトリックはあることを思い出しました。

一度目の同期会で作った、「同期の絆」です。

ケイトは煤だるま
ジョンはケイト
パトリックは髑髏
ルイーズはこびりつき


そしてもちろん、シャーリーの分もあります。

ケイトはまた会った時に渡すと取っておいた、リボン型の「同期の絆」をシャーリーに渡しました。


全員揃うと、円陣を組み、皆が手を中央に集めます。

奇しくもそれは、お披露目の最中にエミリコとショーンとラムが、お披露目を越えてまた合おうと誓っていた時の光景に似ています。


しかし今回は違います。

五対10人。

正真正銘、同期全てのメンバーも心も揃った、新たなる誓いです。


「過ちを絶対に繰り返さない!」


マリーローズとローズマリーの最後の授業。

彼女達がケイトに託した未来は、こうして大きく実を結びました。