来客のない奇妙な館 ~シャドーハウス考察ブログ~

ヤングジャンプで連載中のソウマトウ先生作、“シャドーハウス”の考察ブログです。

第3話 説明書

今回紹介する第3話、実は私が好きなお話の一つであったりします。

内容は、

 

一日の仕事を終えたエミリコが部屋に戻り就寝 → 翌朝、再びケイトのお世話をする

 

というシンプルなストーリーです。

エミリコの部屋の中やケイトの部屋とを繋ぐ扉・生き人形に下命された役割など、見るべきものが多いお話ですが、何よりも注目したいのが、ケイトにとってエミリコの存在がどんどん大きくなってきているのが読み取れる点です。

 

なお、ここからはネタバレを含みますので、まだ第3話を読んでない方は飛ばすことをお薦め致します。↓↓

 

 

 

 

さて、では最初から振り返ってみましょう。

まず冒頭、風呂上がりのケイトが登場しますが、ここで彼女はいつもより早い時間に寝床に就きます。
なぜ早いかどうかなんて分かるのか?
それはケイトの台詞に隠されています。

普通、習慣上普段と同じ時間に寝るのであれば、ここで出てくる言葉は


「今日もそろそろ寝るわ」


のはずです。ところが口にしたのは、

 

「今日はもう寝るわ」

 

これはいつもと違う時間、かつ、いつもよりも早く寝ることを示唆する発言です。


何故早く寝たいのか理由は分かりません。
たまたま疲れていただけかもしれないし、何か気になることがあったのかも知れません。
あるいは早く忘れたいことがあったのかもしれないし、逆に覚えなくてはならないことが多すぎて勉強疲れが出た、とも考えられます。


いずれにせよ、何か思うことがあってケイトは早く寝ようとしたわけです。


そして翌朝、鈴の音を聞いたエミリコが飛び起きます。この鈴の原理は不明ですが、恐らく屋敷にいる生き人形たちに定時の起床を知らせるもののようです。


食事しながら朝支度を済ませるエミリコ。さっそくケイトのもとに赴きますが、ケイトはまだ寝ています。エミリコの様子だと、いつもであればこのくらいの時間にケイトも起きているようですが、この日ばかりはどうやら違うようです。

昨晩早く寝たにも関わらず、よほど疲れていたのか、それとも眠れないほど何か悩んでいたのか・・・。


エミリコが隠し扉の反対側でしばらく待機していると、ようやくケイトが目を覚ましました。
(この時エミリコのお辞儀の足が揃っておらず、さり気なく仕事に慣れてない様を表現しているのがニクいです。)


ところが起きて早々開口一番、


「寝ている間はすすが出るとはいえ今朝はいつもより多くて掃除が大変そうね」

 
と語るケイト。

これ、なかなかに重要な台詞です。

なぜか。


1話を振り返ってケイトの言葉を思い出して下さい。


“「すす」はね、怒ったり… 良くない感情のときに出るの”

つまりこの日の夜、ケイトはいつもより不安定な精神状態に置かれていたのが推測されるわけです。
その詳細を知る術は他人にはありませんが、それにしてもケイトの心中を思うとなんだか切なくなってきます。おまけにエミリコの仕事を増やしているも同然な状況・・・。

 

しかしそんな主人の想いを知ってか知らずか、

「私お掃除大好きです!」と宣言し、まばゆいばかりの裏表ない笑顔を輝かせるエミリコ。

 その笑顔には二心抱くことない、ケイトを慕う真心がひしひしと感じられます。

そんなエミリコに呼応するかのように表情が明るくなるケイト。

もう大丈夫そうです。
既に彼女からすすは出ていません。一晩中抱えていた負の感情が、エミリコの笑顔で一気に瓦解したのです。

 

出会った当初はあくまで身の回りを世話する分身だったのが、いつの間にか心の支えになっていた…。

ケイトにとって、エミリコの存在が大きくなった瞬間です。


二人の関係がより深まったのが手に取るように、でも決して安易な表現を用いないで読者に伝えるこのお話は、まぎれもない傑作の一つです。

第2話 壊れた人形は

続いて第2話です。まずは各話一つずつ紹介しようと思っているのですが、なかなか先が長そうです。果たして連載に追いつく日は来るのだろうか・・・。


それは置いとくとして、このお話は題名の通り、人形=生き人形=エミリコが壊れてしまった!?、というストーリーです。まあ実際は壊れていなかったんですけどね。

詳細については、となりのヤングジャンプにて無料公開されていますのでそちらをお読み下さい。
今現在、1~3話までと1巻収録分以降に連載された各話が公開中です。

 

さてこのお話について、改めて読み返してみると

「生き人形って本当に人形なの?」

という疑問が浮かんできます。連載当初は1話で生き人形と紹介されていましたし、こちらもそういう先入観で読んでいたので特に疑問に思わなかったのですが、よくよく見てみると人形要素が全然ないんですよね。
それどころか、ご飯は食べる・痛みはある・体に人形的な機構は外観上見受けられない、etc…。

これではまるで人間です。

ケイト曰く、シャドー一族に似ていて動けて顔があるので生き人形は人に似せている、と理由づけていますが、それにしては凝りすぎな気がします。だからといって、生き人形は人間だと結論を出すのもまた早計でありますが、少なくとも我々が現世で考えうる人形とは全く違った存在と考えて間違いはなさそうです。

 

ちなみにエミリコはこの会話の中で、「ケイト様は人ですか?」というド直球、インハイぎりぎりを突くような質問を投げかけますが、ケイトは真正面から拒否します。多分彼女もよく分かっていないのでしょう。ケイトは本を読んでいる姿が多く描写されていますが、まだエミリコというパートナーを持ったばかりのいわば新参者の彼女は、勉強しなければならないことがいっぱいあるのだと思います。


にも拘らず、失敗をしてしまうエミリコをやさしく諭すケイト・・・。


読者でも彼女の表情を読み取ることはできませんが、所々でエミリコを気遣うその姿は人格者であり、お嬢様と呼ぶに相応しいと感じさせます。

もっとも最後はエミリコの勘違い(思い込み?)によって、珍しく慌てふためくケイト嬢でしたが、二人の距離は縮まりつつあるのだなと見て取れるオチでした。


第1話  ケイトとエミリコ

平成の世も終わりに近づきつつある2018年9月6日、記念すべきシャドーハウス第1話がヤングジャンプ40号に掲載されました。

 

出版社側の期待も大きかったのか、初回にしていきなりの巻頭カラー&世界展開(韓国での同時配信)と、これでもかというくらい気合の入った幕明けでした。

 

出版不況といわれるこの御時世、少しでも風穴を開けて突破口を見出したいという思惑があったのかどうか定かではありませんが、兎にも角にもエミリコとケイトの物語はここから始まったわけです。

さて、まずは冒頭部分ですが、まるで童話や絵本の導入を思わせるようなナレーションと不可思議な一族の紹介、そして中世ヨーロッパを連想させる絵に好奇心が掻き立てられます。

 

私はこの時点で既にかなり気に入ったのですが、その次の見開きページのエミリコとケイトを見た瞬間、完全に落ちました。気がつけばヤングジャンプを手に取って衝動買いをしていたのですが、この手の世界観が好きだ!という人で、幸運にもこの号を手に取ることができた方はもれなく同じような感想を抱いたのではないでしょうか?

 

見開きの後はエミリコのモノローグとなり、そして主人公たる二人が登場するわけですが、開始早々異様な雰囲気が立ち込めています。それもそのはず、何せエミリコの主人=ケイトには顔がないのですから当然といえば当然です。人は見たことがないものを目にすると、無意識の内に、過去に見た似たようなものを投影しようと脳が働くそうです。ところがシャドー家の人々にはそれが通用しません。なぜなら彼女たちは、姿は見えずとも形は人間なわけですから。ならば彼女たちはどんな存在なんだ!、と違和感こそはっきりすれど、今目にしているものの正体は皆目分からない。これがシャドーハウスという作品に惹かれる要素の一つといえるかも知れません。

 

ただ、その一つ間違えば重苦しいだけの設定も、天真爛漫なエミリコの存在が見事に打ち消しています。良い意味で読者が抱いたぼんやりとした不安感を払拭しているんですよね。

この絶妙な組み合わせが、“隠された謎を見てみたい、少し怖くて重いけれども、二人の微笑ましいやり取りを覗きながらならついていけそうだ・・・”と知らず知らずのうちにこの作品のペースに巻き込まれ、深みに嵌る原因となっているに違いありません。

 

連載当初のエミリコとケイトのささやかな日常風景を経て、現在は登場人物も増えストーリーに厚みが増してきました。ただ、シャドーハウスが持つ独特の雰囲気と魅力は1話から本質的に変わっておらず、まさに原点となるこの話こそが、シャドーハウスの魅力の源泉といっても過言ではありません。

 

まさしく、本作品の登場を飾るに納得の第一話です。


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