前々回の記事(第29話 不完全な地図)の冒頭で、地図と迷路は相反するものという話をしました。

かなり昔に読んだ本の内容だったため記憶はあやふやだったのですが、思い出してみると不思議なもので、久々にその話が載っていた本を読みたくなってきました。

そこで試しに実家の本棚を漁ってみたところ、幸いすぐに見つかりました。

題名は、
「反世界 もう一つの世界はあるか」(産報デラックス刊行)
という本です。
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昭和53年に発行された本で、宇宙や物理についての最新研究を学者・有識者がオムニバス形式で持論を述べています。
他にもショートショートが収録されていたりと、時代を感じさせる部分もあります。

件の迷路の話は、桑原茂夫という文学研究家の方が書いた評論に書かれています。
見開き2ページくらいのエッセイなのですが、それについて読んでいくと、当時は気に掛けていなかった文章に目が留まりました。

迷路に魅入られ、数々の名作を残した奇才。
グレッグ・ブライトという男の生き様です。
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桑原氏のエッセイは、映画「探偵 スルース」という作品に庭園迷路が登場する話から始まります。

それをきっかけに迷路や路(みち)についての考察が述べられているのですが、その中でグレッグ・ブライト氏は“迷路の王様”と紹介されています。

“迷路の王様”とは、またすごいニックネームです。
ですが、彼について調べてみるとそれが誇張でないことが分かりました。

グレッグ・ブライト氏は1951年生まれの英国人で、小さい頃から迷路を描いていたそうです。

どのくらいの頃からかというと、なんと6歳の時からです。
しかも彼が作り出す迷路は次第に複雑化していき、最終的にはまるで絵画のような迷路を書き上げるにまで至ります。
私も試しに氏が書いた迷路の本を買ってみたのですが、迷路というよりはまるで画集です。
更に面白いのは、ただ単に紙の上をなぞるだけではなく、迷路に穴が開いていて、別ページの迷路につながるという仕掛けまで付いていることです。

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グレッグ・ブライドの穴あき迷路の本
(著者 グレッグ・ブライド、訳者 岸田孝一。TBS出版会刊。)

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二次元でしかない平面の迷路を三次元へ、それも紙媒体のまま展開させるとは、その柔軟な発想には感嘆するばかりです。
しかもこの迷路の本は発行が昭和55年ですから、かれこれ40年近く前に書かれたものです。
いや、これは翻訳本なので、実際にはもっと早くに完成していることでしょう。

デジタル化した現代では決して発明されないであろう、迷路の新境地。
まさに"迷路の王様" と呼ぶに相応しい人物です。

それにしてもこの穴あきの地図、紙と実際の道という違いはあれど、シャドーハウスの庭園迷路に似ています。

水路に落ちそうになったエミリコ達や落とし穴にはまったショーン、転落寸前だったルウ。
いずれも平面だと思い込んでいたところに罠が待っていました。

迷路に高低差はないという常識の隙をついた仕掛けと、迷路は平面でしか成り立たないという常識を覆した"穴あきの地図"。
いずれも常人には考えつかないという意味で、特異な存在といえるでしょう。


ところでグレッグ・ブライド氏についてですが、彼にはもう一つ興味深いエピソードがあります。

それは、紙に迷路を描くだけでは満足できなかったのか、なんと塹壕のように地面に溝を掘って縮尺1/1の迷路を作りあげてしまったことです。

更にその後、英国の「ロングリート」に世界一と言われる生け垣で作られた迷路も設計しています。

ここの庭園迷路については、以前の当ブログ記事(イングリッシュガーデン)でも少し触れましたが、こんな風に調べていたことがひと繋がりになるとは、まさか思いもしませんでした。

何だかシャドーハウスの奥深さに嵌り込みすぎて、もう戻れない深みにまで入り込んでしまった気がします。

それにしても、今回書いてきたことがもし偶然でないのなら、どれだけ綿密に計算された作品なのかとつくづく感心するばかりです。