時間が経つのは早いもので、第53話の公開からもう2週間が経ってしまいました。

ここ最近は暇を見つけては書店巡りをしていたのですが、そうこうしている内に最新話の公開日が迫っていて吃驚しました。危うくあらすじ紹介を失念するところでした。今後は気を付けたいと思います。(繰り返さないとは言っていない)


今回のお話は、最近公開された数話のまとめともいえるストーリーでした。

星つきの仕事、生き人形の秘密、お披露目後の環境の変化、同期の動向、そして徐々に浮かび上がってきたシャドーハウスという館の“闇”……

極めつけは、ようやく光明が見えはじめてきた『仲間探し』の試みが、あっという間に絶望へと突き落とされたことです。


聡明果敢な主人公コンビにたちこめる暗雲。
しかしケイトはそれを振り払うが如く、ある決断を下しました。

過去のストーリーにちりばめられた断片が、やがて一つの方向を指し示す。

今回の第53話は、これまで読み続けてきたファンにはたまらない名エピソードです。
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今回の記事はいつもと趣を少し変えて、過去のエピソードがどのように絡められているのかに注目しながら紹介していきたいと思います。


扉絵は、こっそり部屋の外を覗くエミリコと、番兵のように廊下に立つ顔の見えない人形です。

それを見て、抜き足差し足忍び足でケイトの元へ戻るエミリコ。こちらはまるで偵察兵のようです。

これがエドワードの指示によるものなのか、それとも成人したてのケイトの部屋だからなのか、はたまたエミリコの洗脳が解けたことが察知されたからなのかは分かりません。

しかしケイトにとってこの状況は、かなりの重圧でした。

第11話でエミリコを助けるために部屋を出た時、監視はここまで厳重ではありませんでした。
それを思い出してか、突然の環境の変化にケイトは心配しきりです。

お披露目で目立ちすぎたか、すす能力の授業で不審に思われたか、はたまたジョンに手紙を渡したのが悪かったのか…

特にケイトが気を揉んだのは、ジョンのことでした。

「あのジョンよ?何をし出かすか…!」

ケイトの心配は、半分は正解で半分は間違いといえるでしょう。
…間違いというより想定の範疇外と言った方が正確かも知れません。

奇想天外な青春劇がジョンの部屋で繰り広げられたことを、ケイトはこの時まだ知りませんでした。

そんな風に思い詰めるケイトに、明日は大掃除の日だからと笑顔でエミリコは語り掛けます。
第8話では初めての大掃除に不安そうだったのに、すっかり成長しました。

ここでは描かれていませんが、きっとケイトの煤はもう出ていなかった筈です。


夜が明けて間もなく、開錠されるや否やエミリコは部屋を飛び出しました。
薄暗い早朝の廊下を、奇妙な体勢で駆け抜けるエミリコ。足音を立てない様に靴を履かないままショーンの元へ急ぎます。

成程、班行動の間はショーンに会えるか分からないので、朝のうちに会おうという算段だったようです。流石エミリコです。

しかし彼女はショーンの部屋の場所を知りません。かといって、手当たり次第に窓を開けるわけにもいきません。走りながら、エミリコはどうしようか思案しました。

ところが、突如エミリコの目にパンが映ります。
生き人形の食料として支給される、あの固いパンです。

思わず引き寄せられるエミリコ。
これがもし罠だったらどうするのか、そんな心配が頭をもたげます。

しかしここにパンを仕掛けたのはショーンでした。

深夜の見廻りの時も、お披露目の時もパンに目がなかったエミリコ。
ショーンはエミリコなら、いやエミリコだけが分かる(引っ掛かる)目印をわざと置いておいたのです。

流石ショーンです。これならこの日エミリコに会えず、更にパンを目撃されて怪しまれても『食欲がなかったからパンを取らなかった』など幾らでも言い訳は出来ます。お見事です。

そうしてエミリコを部屋に招き入れたショーン。
特定の少女に狙いを定め、作戦を練り、読み通りに自室へと引き込むことに成功しました!

…こう書くと、ショーンは中々の手練れですね
シャドーハウスでなかったら、どれほどモテたことでしょうか。
流石ショーン!(2回目)

逆に、まだ洗脳が解けたかどうかも分からないのにショーンに言われるがまま部屋に入っていったエミリコも凄いですね。
それとも、よくフィクションで見かける『あの秘密(この場合はパン)を知っているということは、お前は本物だ!!(この場合は洗脳が解けたショーン)』みたいな感じで、エミリコには何かピンとくるものがあったのかも知れません。

それもこれも、深夜の見廻りやお披露目で長い時間を共有した二人だからこその以心伝心でした。

そしてジョンが手紙を読んでからの顛末を語るショーン。
これまでの経緯から推測するに、すす洗脳は徐々に薄まっていくのではないかという結論が導き出されました。

嬉しさのあまり、ショーンに抱き着くエミリコ。
引きの絵を見ると分かりますが、エミリコはしなだれかかるのではなく、腕でショーンを抱えるように抱き着いています。
男女の抱擁というよりは、兄妹や親子が身を寄せ合っているといった雰囲気です。

ショーンが元に戻って良かったと涙を流すエミリコですが、それはつまり、ショーンがあのまま洗脳されたままになってしまうかも知れないという不安があったからだと思います。

未だ洗脳されたままのルウとリッキー。
もう戻れない状態かも知れないミアとローズマリー。
そして、約束を果たすことができなかったラム。

同じようにショーンも離れてくのではないかという悲しみに、エミリコはずっと耐えていたのかも知れません。
形こそ違えど、エミリコが感情を発露する姿に第35話のラストでケイトの名を叫んでいたシーンが思わず浮かんできました。

さて、そんなこんなしている間にエミリコは大掃除に遅刻してしまいました。

早朝ダッシュがばれていないかどうか、恐る恐るミアに尋ねるエミリコ。
しかしその答えは、エミリコにとって少し寂しい台詞でした。

その後、大広間の真ん中にエミリコは立ちすくみます。

第8話で初めて部屋の外へ出たエミリコ。
あの時は広間中が朝日できらめいており、大勢の生き人形が行き交う活気ある空間でした。

しかし全てを知ったエミリコにとって、今目の前に広がる光景は色褪せたものでしかありません。

エミリコの視線の先には、重い荷物を運ぶ少年と、かじかんだ手を温める少女がいました。
その少女の手は煤で汚れきっています。

その姿にエミリコは、本当にこれで皆幸せなのかルウに問いかけました。

しかしここで、エミリコは第50話の出来事を思い出します。
やってしまったと冷や汗をかくエミリコ。

ところが予想に反し、ルウの反応は至極穏やかなものでした。

第50話の時とは違い、優しい表情で返答するルウ。
その様子に、エミリコは明るい兆しを感じ取ります。洗脳から解けつつあるルウの姿を笑顔で見送りました。


ですが、そんなことは確認するまでもなく、館側の方がよく把握していました。
安心したのも束の間、またもや生き人形達に魔の手が及ぶことになります。

星つきが運んできた怪しげな黒い液体。
既視感を覚える光景にエミリコの背筋が凍ります。

しかも今度は珈琲ではなく注射器でした。
余計に不穏さが強調されます。

幸い、今回の偉大なるおじい様の煤は、経口摂取による投与でした。
そのためエミリコと、エミリコの機転によって救われたショーンは吐き出すことに成功します。

しかし、それに疑いを持たないエミリコとショーン以外の生き人形に再び狂騒が降りかかることになりました。

バービーの指名により、代表に選ばれたダグという名の生き人形。
あの第44話で身を捩りながら手を振りかざしていたシャドーの生き人形です。
彼には、生き人形の掟を唱和する音頭が託されるという『名誉』が与えられました。

間もなく始まった、生き人形たちの大合唱。

幾つも唱和される生き人形の『教え』ですが、言ってしまえば“シャドー家のためになることだけを考えよ”という意味しか持たない口上群です。

ひたすら広間にこだまする『教え』と陶酔しきった生き人形達を見て、エミリコはすっかり顔色を失っています。ショーンも同じだったでしょう。

願わくば、その二人の様子までもが監視されていなければ良いのですが……


部屋に戻ってケイトに大掃除の様子を話すエミリコの姿は、悔しさの極致とも言える表情でした。
彼女のこんな顔は初めてです。エミリコからしてみれば、一刻も早く逃げ出したかった辛い時間だったと思います。もしショーンまでもが洗脳から目覚めていなければ、いくらエミリコといえども正気を保ってはいられなかったかも知れません。

左手で右腕を掴む仕草には、エミリコの痛々しさがこれでもかと伝わってきます。
そういえば、第44話で偉大なるおじい様を見上げていたケイトも、溢れる怒りを抑えるように左手で胸を抑えていました。

彼女達は右利きですが、感情が乱れた時には左手を無意識に動かしているのかも知れません。

また、第21話でケイトを想いベッドに横たわっていた時も、エミリコの胸に当てられていたのは左手でした。


偶然か必然か。

エミリコの話を聞いて、奇しくもケイトはあの時のエミリコと同じ決心をします。

「目標は‟星つき”!」

かつて従者によって無邪気に掲げられた『願望』は、長い時間を経て、より重い意味を持つ主人の『宿願』へと姿を変えました。

このケイトの宣言は、同時に星つきを目指すパトリックやサラとの対抗をも意味する重大な決意です。


競争に打ち勝ちながら、かつ敵を作らないよう仲間を集める。
そんな困難なミッションを、ケイトは自らに課しました。

しかしこの二人ならそれさえも不可能ではないでしょう。

大切な人の心をこれ以上奪わせまいと、ケイトとエミリコは新たな戦いへと身を投じました。