またも既視感のあるタイトルがお目見えしました。


「生い立ち」


前回の第198話「独白」同様、これも過去に用いられたことのあるサブタイトルです。第108話のことでした。

何と言いますか、2度も続けてくるとは予想外でしたね。こうなってくると次回も同じサブタイトルが来るんじゃないかと思えてきます。

最も、それだと新鮮味がなくなるので流石に3回続けてはないでしょうけどね。

でもそうですね、もしも私がサブタイトルを付けられるとしたら、第107話「独白」第108話「生い立ち」第109話「シャドーハウス」に対抗して第200話には「ミラーハウス」と付けてみたいです。これなら少し変化球にしつつも、過去のエピソードと対の副題になりますし、何より節目にふさわしいサブタイトルになるのではないでしょうか?

一読者という立場ではありますが、こうして次の展開やサブタイトルを想像するのはなんとも楽しいものです。


しかし、そんな簡単に展開を予想できるはずがないのは皆様も承知かと思います。それこそがシャドーハウスの魅力の一つだからです。それどころか丁寧に綴られてきた伏線が、あっと驚く新事実によって回収されることは何度もありました。それこそがこの作品の醍醐味なのです。


今回のエピソードも例に漏れませんでした。

「希望の子」と呼ばれた美少年。

彼の狂気は幼少期から育まれてきたことが分かりました。
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端正な顔の下に底知れぬ狂気を秘めたアンソニー。
遂にあの男の原点が明らかになりましたね。


「僕は特別な存在」
「僕がミラーハウスの後継者」


館を追われたミラーファミリーはコールマインにて奪還の機会を窺い、アンソニーもその悲願達成のため幼い頃より特殊な訓練を繰り返していたそうです。それはひとえに、シャドー家に支配される島の住人を救い、ミラー家の手に島の支配権を取り戻したいというアルフレッドの執念でした。

なるほど、物心ついた時からそう育てられてきたのならアンソニーのこれまでの行動・言動に説明が付きますね。


例えば、第79話でケイトに目的を問われた彼は「それは一緒だよ」と意味深長なことを言っていましたが、ケイトの目的が「ミラーハウスを取り戻すため」(第106話ラスト)ならばアンソニーも同じといえます。

此度のエピソードで彼は「島も館も住人もモーフも全て僕の所有物でしょう?」とアルフレッドに問うてますが、元当主のアルフレッドの実子という自負があるならばアンソニーは正統な後継者ということになるのですから理屈としてはそうでしょう。いささか偏狭な思想ですが、館を取り戻すことが自らのアイデンティティだったならばこういう考えになるのもやむなしです。


また、第164話でアンソニーはマギーを斬殺していますが、その理由も第199話を読めば何となく理解できます。

当時私は各話感想(第164話 恩恵の欠片【感想・一部考察】)にて、アンソニーがマギーを斬殺した理由について「『生徒』に相応しくないと思ったのは間違いない」「マギーは利用価値はありません」と書きましたが、それにしたってアンソニーの行動は「こどもたちを救いたい」とするケイトの理念とは到底相いれないため、彼の第79話の台詞は理解しかねるものでした。

でも今回明かされたアンソニーの“生い立ち”を見れば納得ですね。

当時のマギーはシャドーを滅ぼす旨の発言をしていましたが、恐らくそれがアンソニーの逆鱗に触れたのでしょう。アンソニーからすれば目の前の少女が自らの所有物を勝手に滅ぼそうと発言しているのが鬱陶しかったのだと思います。加えて、マギーもすす島の「住人」ですから所詮自分の所有物だという意識がアンソニーにはあったと思います。それがあのシーンの結果になったということです。

さらに、これも第79話で描写されていた出来事ですが、マリーローズとローズマリーを救おうとクッション型のすす能力を行使していたケイトのために、アンソニーはすす管の上に煤を運んでいたと語っています。

「君が出した!信じられない量をね!」と彼自身が言い切るほどのケイトの煤をアンソニーがどうやって運んだのか気になっておりましたが、それも幼少期の「特別な訓練」の賜物でしょう。

そういえば後出しじゃんけんになりますが、マリーローズ達のために食料を用意したという台詞を見てそれを一体どこに置いたのだろうか、崖の底だとしたらアンソニーは館に自由に出入りできるのではないかと当時うっすら感じていたのを思い出しました。

今回のエピソードでは崖を登り切ったアンソニーが館の外壁まで辿り着くシーンがあります。

となればあの当時、既にアンソニーは館と敷地外を自由に出入りしていたのでしょう。彼が今までどうやって館の中に潜伏していたか不明でしたが、崖を行き来できるのなら問題になりません。その都度その都度館に潜入と逃亡を繰り返していたならそれで話はお終いです。

SNSでは第79話でアンソニーがサニタリーから消えたシーンについて、ダストシュートを通った可能性が出てきたというコメントも散見されますが、それもあり得ない話ではありません。

謎に包まれたアンソニーの行動は、類稀な身体能力によってもたらされたと言われても思わず納得してしまうアンソニーの「生い立ち」でした。


もっとも探せばまだまだ分からないことも多いんですけどね。

第94話でダグラスとサラが会話しているシーンがありましたが、あの時非常に険しい顔でアンソニーは聞き耳を立てていました。

あのシーンを見た当時は、サラが崇拝対象をクリストファーからエドワードに鞍替えしたことに対して怒りを覚えていたのではないかと考えていましたが、ここ最近のエピソードを見る限りだとそこまでクリストファーに対しアンソニーは思い入れはなさそうな気がします。(気軽に複製を作るくらいですし)

また、第54話でエミリコ達は長らく使われていない部屋を掃除していましたが、これまで神出鬼没だったアンソニーが潜んでいるのはもしかしたらあの部屋なのではないかと想像していました。ただ今回の第199話を見る感じですとその線は薄いかも知れません。あの部屋の謎は何だったのか気になるところですね。

他にも、第53話で一班が丸ごと「壊れちゃった」(或いは「本当はお影様に何かあったのかもね」byミア)という描写もありました。これも中々引っ掛かるシーンです。

今考えるとアンソニーが「恩恵の欠片」でも使って何かしでかしたんじゃないかと邪推したくなる場面ですが、裏で何かやっていたとしてもアンソニーであれば妙に納得してしまいそうになります。

こうした作中に残された少ない未解決の謎にもアンソニーは関係しているのかも知れません。


それにしても、第79話で「...僕は人間だ シャドーでない者に...出来ることは限られている」とアンソニーは言っていましたが、ここまでくるとアンソニー一人だけでも何でもできてしまうんじゃないかと思えてきます。

効率的だから取りあえずケイトを利用しているだけで、ひょっとしたらケイトの最大の敵は偉大なるおじいさまではなくアンソニーなのではないかと感じる今日この頃であります。


さて、ここまでアンソニーについてつらつらと述べてきました。

頭脳だけではなくずば抜けた身体能力と狡猾さ、冷徹さを持つ彼には一つの隙もないように見えます。これほど厄介な敵はいないでしょう。

しかし、そんなアンソニーに弱点がないかといえばそんなことはないと思います。

なぜなら、アンソニーの生きてきた世界は非常に狭いからです。


父のアルフレッドから、館を取り戻すことが使命だと言い聞かされて育ったとアンソニーは語ります。

それが故に、年老いて館の奪還を諦めた実の父親を彼は殺害しました。それを受け入れることはアンソニーのアイデンティティの否定を意味したからです。そうしてアンソニーはシャドーハウスに潜入することとなりました。そして時が経ち今に至ります。

こう見ていくと、実はアンソニーってミラーファミリーとシャドーハウスいう閉じた世界でしか生きていないんですよね。


こどもたちやエドワード、ルイスを手玉に取っているのを見るとついついアンソニーの巧妙さに舌を巻いてしまいますが、それの原動力も「僕の所有物」を手にしたいという欲求でしかありません。

今回の第199話を読んでいて感じたのですが、偏った価値観を疑いもなく妄信しているさまは皮肉にもシャドーハウスで煤珈琲に洗脳されたこどもたちと同じといっても言い過ぎではないでしょう。


「僕は特別な存在」
「僕がミラーハウスの後継者」


こう言い聞かせるアンソニーの姿は、「シャドーハウスは素晴らしい館である」「シャドー家に仕えるることが幸せである」と唱える「生き人形」と何ら変わりません。

第198話の煽り文に「願い」と書いて「呪い」と書いてありましたが、アンソニーはまさにアルフレッドの「呪い」に洗脳された状態なのではないでしょうか。そうした偏狭な思想は、必ずや目を曇らせ、いつか判断を誤らせることになる可能性は非常に高いです。


ならば、ケイトにも勝機はあります。

ケイトはエミリーの手によって普通の少女として育てられました。エミリーは数十年前の陰惨な事件からケイトを遠ざけ、ケイトもそれに応えるように友達を作り、学校で勉強し、自然豊かな村の中で平和に過ごしていました。

そんな風に暮らしていた「普通の生活」は、今のケイトにとって大きな財産になっているからです。


ケイトはこれまで、エミリコを大切にし、仲間を信頼し、こどもたちを救おうと奮闘し、相手を理解しようと努めてきました。そんなケイトの姿に多くの味方が賛同した結果、星つきになるまでに至ったことは記憶に新しいと思います。

こういった、これまで描かれてきたケイトの思想はかつての「普通の暮らし」の中で育まれた価値観です。星つき就任は彼女ならではの価値観がもたらした成果と言えるのです。

ならば、これはアンソニーにはない、ケイトだけが持つ大きなアドバンテージだと私は考えています。


第108話で、エミリーはこんなことを言っています。

「キャサリン様は動かなくなる前にこうおっしゃったわ 生まれた子を守ってほしい」

この願いは呪いではありません。母親として、生まれてくる小さな命の無事を祈るささやかな願いです。

この言葉を胸にエミリーはケイトを大切に育てました。かつてケイトは自分を考えなしに育てたとエミリーに激昂していましたが、短いながらもエミリーがケイトに与えた「普通の生活」は今現在のケイトの礎となり彼女を支えているのです。

そして、その恩人の名を継いだ従者が館の中でケイトを支えてきたという事実を思う時、運命とは不思議なものだと思わずにはいられません。


第108話のサブタイトルは、奇しくも今回と同じ「生い立ち」でした。

真反対の境遇の中で育った少女と少年。

その対立の源泉が「生い立ち」だとすれば、その勝敗を分けるのも二人が辿ってきた「生い立ち」に違いありません。