来客のない奇妙な館 ~シャドーハウス考察ブログ~

ヤングジャンプで連載中のソウマトウ先生作、“シャドーハウス”の考察ブログです。

各話感想

第204話 奉仕者【感想】

我が国の歴史において、もっとも有名な「忠臣」といえばこの武将をおいてほかにないでしょう。

楠木正成公像

鎌倉時代から南北朝時代にかけて名を馳せた、楠木正成公です。

楠木正成は後醍醐天皇に仕えていた武士で、元寇をきっかけに求心力を失っていた鎌倉幕府を倒し、天皇親政(建武の新政)への道を切り開いたことで知られています。

上の銅像は、幕府に捕らえられ流罪となっていた後醍醐天皇が隠岐からの脱出に成功した際、兵庫にて出迎えた勇姿を象ったものだそうです。ここで主君と合流した楠木正成は京都まで後醍醐天皇を護衛し、天皇からの絶大な信頼を経て政治の中枢に携わることとなりました。


ところが、後醍醐天皇が理想とした天皇親政は僅か2年で崩壊します。

新制度の導入に伴う混乱や失政、権力地盤の脆弱さを原因とした相次ぐ反乱などによって統治がままならなかったからです。やがて、鎌倉幕府倒幕に大きく貢献し、その後も後醍醐天皇の命を受けて各地の鎮圧に当たっていた足利尊氏までもが、混乱続きの天皇親政から距離を置き反旗を翻します。そうして後醍醐天皇側の勢力は徐々に劣勢となっていきました。

そんな中、楠木正成は変わらず後醍醐天皇に付き従います。正成自身は尊氏の実力と人望を高く評価しており、後醍醐天皇に尊氏との和睦を薦めていましたが、主君の答えは「尊氏を追討せよ」というものでした。


そして迎えた「湊川の戦い」

既に民衆からの支持を失っている後醍醐天皇。翻って、各地の武将や寺社の支援、民の人心を掴んでいる足利勢。

そうした風聞を見ていた正成は、戦いの前から敗北は必至と考えていたそうです。その予感通り、彼は敗色濃厚となった建武3年5月25日に自刃しました。その最期は弟の楠木正季との差し違えだったと伝えられています。建武の夢はこうして儚く消え去りました。


ところが、敗者にも関わらず彼の名は今でもよく知られています。

楠木正成の名を知らなくても、上の写真の銅像を見たことがあるという方も多いでしょう。高齢者の方ならば「大楠公」の名で覚えている方もいらっしゃることと思います。ウェブで検索すると「日本三忠臣」などどいう言葉もあるようで、当然ながら楠木正成は忠臣の筆頭に挙げられています。

これは、強き者に付き勝ち馬に乗るのが当然とされる戦乱の世において、身が果てることを知ってなお主君のために尽くした楠木正成を、後世の人々が称えたためです。

現在、彼を顕彰する像や碑は全国各地に見受けられますが、もっとも著名なのは上でも掲載した皇居外苑の「楠公像」です。

主君のために忠義を守り通した当時の楠木正成と同じく、銅像へと姿を変えた令和時代でもなお、皇統を見守るかのように彼の姿は皇居の側に鎮座し続けています。


さて、長くなりましたが、こうした「忠臣」を題材にした史実やフィクションは高い人気を誇ります。

古くから和気清麻呂や「忠臣蔵」は有名ですし、近年では高橋紹運の岩屋城の戦いや大戦末期のペリリューの戦いも知られるようになってきました。

これはきっと、心揺れ動き定まりのない出来事の多い世の中において、ブレず媚びず引かぬ人生を歩む忠臣たちの姿に心を打たれる人々が多いからではないでしょうか。そして、そんな「忠臣」が忠義を貫くにあたっての苦悩に思い馳せ、それでも筋を通した人生に拍手を送ろうという、純朴な感情がそこにはあるからだと私は考えています。


此度のエピソードで描かれた「忠臣」は、残念ながら長い道のりの中で挫折してしまい、生きる意味を失っていました。生き方を定められた苦悩、人生の意味を失った喪失感、目的を果たせぬと悟った時の悲しみは、通常の人生を歩む私には計り知れない辛さだったと想像します。

しかし、そんな彼の前に主君の血を引く存在が姿を現し、再び生きる意味を与えてくれました。

主君の後継者に頭を垂れた彼の瞳は、麗しの薔薇の前でついに輝きを取り戻します。続きを読む

第203話 欺瞞【感想】

この間までの猛暑はどこへやら、東京はすっかり秋めいてきました。あまりの涼しさに、夜はぐっすり寝てしまい寝坊しそうになる今日この頃です。

さて、秋といいいますと、スポーツの秋・芸術の秋・読書の秋・睡眠の秋と色々ありますが、個人的に真っ先に浮かぶのは「食欲の秋」です!

秋と言えば作物実る季節ですからね。作物だけではなく、サンマを筆頭に旬を迎える魚も多いので納得のフレーズです。エミリコが現実世界の日本にいたなら、きっと好きな季節は秋と即答するのではないでしょうか。世の話題は雲一つない秋晴れ、とはいえない昨今ではございますが、せめて食事中くらいは嫌なことを忘れて美食に舌鼓を打ちたいものです。


ということで、私は昨日仕事抜け出してデニーズへ行ってきました。お目当てのメニューはこれです。

シャインマスカット

「シャインマスカットのスプラッシュサンデー」です!

なんとシャインマスカット15粒を丸ごと使用するという豪快なメニュー。お値段は張るものの、スイーツ好きなら絶対後悔しないはずです。甘党の私には最高のデザートでした。


さて、一見シャドーハウスとは関係なさそうな話題ですが、実は関係があります。

なぜなら今回の第203話では、葡萄が好きなキャラクターが登場したからです。


こどもたちの棟の前管理者・トマス。


かつて大人たちの棟の2階に君臨していた男。そんな重要人物がケイト達の前に突如姿を現したのです。

ところが、彼は我々読者にも予想のつかない方向でとてつもない変貌を遂げていました。

それは葡萄から渋みが取り除かれたマスカットのようでした。続きを読む

第202話 残った仲間【感想】

なんとも情けない話ですが、最近珈琲が手放せない毎日が続いています。

といっても勿論、シャドーハウスに出てくる洗脳珈琲の話ではありません。私が飲んでいるのはごく普通のブラックコーヒーです。

連載記念日に意気揚々と富士山に行ったのは良いものの、その間に溜まった仕事やいつの間にか進んでいた案件諸々片づけていたら、あっという間に203話&18巻発売日が迫ってきてしまいました。心の中ではまだ9月上旬だというのに、ふと気づけば18日ですよ。年取ると時間の進みが早くなると言いますが、その時間にしがみつくために絶賛カフェイン常用中でございます。


しかし、本来であれば珈琲はもっと味わって飲むものですよね。「コーヒーブレイク」なんて言葉があるように、心を休ませるために珈琲を飲むという方も多いことでしょう。そういえば私自身も「第195話 新班編成【感想】」という記事で椿屋珈琲について触れてましたが、暇ができたらまたこんな風に珈琲を楽しみたいものです。(まあそれまでは頑張らなきゃですが……)


さて、ところでシャドーハウスで描かれる「珈琲」はとかくおぞましい飲み物ですが、キャラクター達にとっては特別な意味を持つ飲み物です。その理由はネタバレになるのでここでは触れませんが、少なくとも激務の中で摂取する飲み物ではないことは確かです。作中において「珈琲」は贅沢な飲み物なのです。


此度のエピソードでは、「仕事中」だったという理由で珈琲を摂取しなかったおかげで、危機を回避することのできた一対が登場しました。

ケイトは数少ない仲間とともに、窮地を脱すべく再び立ち上がります。続きを読む

第201話 喪失【感想】

こちらの写真は説明するまでもない、大阪の象徴・通天閣です!
通天閣

シャドーハウス原画展の大阪会場に行った時に、ついでに寄って撮ってきました。

以前の記事でもちらっと触れましたが、大阪はこれまで未訪問(新幹線等で通過や着地はしたことはある)だったんですよね。そこでこれ幸いと足を伸ばしました。他にも大阪城や道頓堀も見てきましたが、東京とはまた違ったエネルギッシュな街に大変驚かされました。まだ回っていない観光地もありますので、機会があれば再訪問したいものです。


ところで、通天閣の真下を通るとこんな記念碑がありました。
坂田記念碑

名は「王将碑」。

調べたところ、明治から昭和にかけて活躍した堺出身の棋士・坂田三吉を顕彰するために建立されたとのことです。

坂田三吉は関西に敵なしとまで言われた伝説的な棋士で、貧困を克服して将棋界に名を轟かせたその生涯は、文字通り棋道に全てを捧げたものでした。彼に関するエピソードは数多いので是非調べてみて下さい。そのどれもが勝負師として、棋士としての誇りを感じる逸話ばかりです。

ただ、それが故に平坦な人生ではありませんでした。トラブルに見舞われることも度々で、亡くなった時は世間から顧みられることのないひっそりとした最期でした。

しかしながら、そんな一生が人を引き付けるのでしょうか。

坂田三吉がこの世を去って間もなく、彼の生涯を描いた映画「王将」が大ヒットすると坂田の名は棋士として不動のものとなりました。多くのライバルとしのぎを削り闘い続けた坂田は、将棋を愛した粋人として今もなお大阪の誇りとなっています。それが通天閣にあった王将碑だったというわけです。


ところでこの王将碑。

すぐ脇に将棋盤がありますね。こうした対局時の様子が写された将棋盤を正しくは「棋譜」といいます。

これは大正2年に坂田三吉と関根金次郎(後の十三世名人)が対局した時の棋譜ですが、なぜそれが展示されているのかというと、坂田三吉の有名な台詞「銀が泣いている」が発された対局だったからです。

この件について詳しく語ると長くなるのでざっとした説明になりますが、当時の対局の途中、坂田は関根の巧みな戦術に追い込まれてしまったそうです。

そうした中、坂田は関根の「香車」の前に「銀」を打って何とか打開しようとしますが、その意図を感じ取った関根はまったく動じず坂田を攻め続けます。

その数刻後に放たれたのが「銀が泣いている」という悲痛な台詞でした。

後に坂田は、この発言の真意について「あの銀はただの銀じゃない。それは阪田がうつむいて泣いている銀だ。(略)その銀という駒に阪田の魂がぶち込まれているのだ。」と語っています。

まさに坂田は、全身全霊をかけて将棋をしていたことが分かります。駒と自身を同一化して勝負に臨むこのエピソードを聞いて、果たして自分はそこまでの思いを掛けて仕事することがあっただろうかと考え込んでしまいました。こうした出来事があったことを知り、ますます大阪という街について興味が湧く今日この頃です。


さて、前置きが長くなりましたが、シャドーハウスと将棋って似てますよね。

いきなり何を言い出すんだと思われるかもしれませんが、ケイトが知恵を絞らせて様々な問題に立ち向かうのを見ていると、頭脳戦の比重が高い作品だと思います。

ジョンパンチのような少年漫画要素やパトリック周りの恋愛漫画要素も見逃せないと言ったらそれまでですが、それを踏まえたとしても知略が巡らされた作品であることは間違いないでしょう。実際にソウマトウ先生も「館ミステリー」と仰っていますからね。将棋と同じく、目的を達成するために相手との駆け引きを積み重ねてケイトは多くの収穫を手にしてきました。


ところが一転、今話でケイトは追い詰められました。

彼女を追い詰めた相手はアンソニーです。

アンソニーは自身の目的を達成するため巧妙に立ち回り、遂に第195話で表舞台に躍り出るまでになりましたが、彼は公衆の面前で「選択」という名の要求をケイトに突き付けました。

その要求になすすべもなく白旗を上げるケイト。

その姿は、詰みを察して投了する棋士のようでした。続きを読む

第200話 シャドーハウス【感想】

既に何度も繰り返しておりますが、シャドーハウスの連載回数が200回となりました!おめでたい!!

第200回扉絵

こちらは第200話掲載号のヤングジャンプの扉絵です。うん何度見てもいいですね!

シルエットなので二人の表情は見て取れませんが、シャドーハウスを読んできたファンなら二人の満面の笑みが見えていることでしょう。いや、絶対そうに決まってます!(断言)

さらに言わせて貰うなら、抱き合ってピョンピョン飛び跳ねている二人の姿だって私には見えますよ。第114話ラストのケイトとエミリコもそうでしたが、静止画なのにこうも躍動感ある描写を生み出せるのはソウマトウ先生の技術があってこそです。そして、ケイトとエミリコが手を携えてここまで歩いてきた道のりを、読者が知らず知らずのうちに想起しているからにほかなりません。

となれば、この扉絵はシャドーハウスという作品が築いてきた200のエピソードそのものを象徴しているといっても過言ではないでしょう。

ケイトとエミリコのシルエットの周囲には過去の単行本の表紙が鮮やかに散りばめられておりますが、それとは逆に、二人の黒塗られたシルエットの中には読者一人一人が思い描くシャドーハウスの思い出が写っているのではないかと勝手に想像しています。さあ、皆様の目には漆黒のシルエットの中に何が見えておりますでしょうか?


ところで、なぜ唐突にこんなことを書いたかと言いますと、鋭い方は想像つくかと存じますが第35話のエミリコの台詞「見えないからこそ私は想像したいんです」を念頭に置いた問いかけです。

原画展のソウマトウ先生のご挨拶でも引用されていたように、この台詞はシャドーハウスという作品を象徴する台詞です。pixivFANBOXにて、“今回の扉絵はあまり見かけない構成”といった旨の記述がございましたが、そうした大胆な構成になった理由として上述のように読者の想像に委ねる部分もあったのかなと思っています。

まあ、ここまでくると想像ではなく夢想、さらに言うなら妄想に近いですけどね。でもせっかくの記念回ですから大目に見てやって下さい。これが私の平常運転です。


ただ、それは物語を外側から見ている人間だからこそ許される行為です。想像を重ねてああだこうだと語り、それが外れていても何の危険もありません。神の視座の特権です。

しかし、登場人物からすればそれではいけません。想像、或いは推測を積み重ねながら、着実に真実に近づくよう慎重に事に当たらねば命を落とすことだってあり得るからです。そうした中で、直接的な確証を得られればそれに勝るものはありません。「情報」という力が古今東西重宝されてきたように、時としてそれは運命を左右します。


此度のエピソードでは、これまで語られてきた核心的な「情報」の多くを自らの手で得てきた、並大抵ならぬ人物の実像が明かされました。

煤煙によって覆われた館でさえも、彼にとっては野望を叶えるための舞台でしかありません。続きを読む
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