来客のない奇妙な館 ~シャドーハウス考察ブログ~

ヤングジャンプで連載中のソウマトウ先生作、“シャドーハウス”の考察ブログです。

各話感想

第209話 星降る夜【感想】

「水は地球の命です」

こんなキャッチコピーのCMが流れていたのはもう30年位前でしょうか。今やご存じの方も少なくなっていることと思います。

しかし、人、そして生物の営みに水が欠かせないのはいつの時代も同じです。四大文明を例に上げるまでもなく、人は水を求めて河川の近くに街を築きました。

川沿いに住むとなれば洪水などのリスクも当然ありますが、それでも背に腹は代えられません。結果、人類は長い歴史の中で治水技術を発達させ河川近くに都市を作るまでになりました。

そういえば今年の夏、首都圏の命綱・利根川の源流が発見されてから丁度50年と話題になっていましたが、そうした治水に携わってきた先人のお陰で我々は便利な生活を享受することができています。


ところで、先程四大文明について触れましたが、現代でも大都市には河川(ウォーターフロント)はつきものです。

ニューヨークのハドソン川、パリのセーヌ川、東京の隅田川……

そしてシャドーハウスのモデルとなっているイギリスではロンドンのテムズ川が有名です。「世界都市」と呼ばれるこれらの都市において、いかに河川が重要な役割を果たしているのかがよく分かりますね。上記の都市が発展したのは決して偶然ではないのです。
テムズ川
(この写真は12年前のロンドンです。色んな船が行き交ってる!)


しかし、光あるところには必ず影があります。

繰り返しますが、河川は人間にとって重要な場所です。

それが故に、かつてのテムズ川は過酷な生活を強いられた人々が集まり、辛うじて命を繋ぐ悲惨な場所になっていました。身寄りのない子供たちが豊かな大都会の「おこぼれ」に預かろうと、川底に埋まった品々を漁っていたのです。


「泥ひばり」


そう称された貧しい人々。

その中にかつて、我々がもっともよく知る人物がいました。



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第208話 正義【感想】

一般論として、正義を為すこととルールを守ることは正しいことであり、矛盾はないとされています。

社会においては「ルール」というやや曖昧な概念よりも「法律」と言った方が誤解はないかも知れませんね。いずれにせよ「正義」と「法律」を守ることは同義といえましょう。

まあ、これに関しては考えるまでもありません。

多種多様な価値観を持った集団がルールを定めてそれに則った動きを行うことは、その集団の秩序の維持や安定的な運営、継続的な進歩・豊かな経済活動・将来の繁栄に必須ですからね。そうでなければ、各個バラバラの主義主張を持つ人間が社会性を持って暮らしていくのは不可能です。そのバランスが崩壊したことによる悲劇は、人類の過去の歴史が何度も証明しています。

そして「正義」という言葉を辞書で引くと、「人の道にかなっていて正しいこと」「道徳的な正しさ」と出てきます。

ある選択を迫られた時、利益・欲求だけではなく「正義」という概念をよりどころにして生きている方も多いでしょう。社会通念上、「正義」とされるほとんどの事象は善と見做されています。

だからこそ、一般的に「法律」の内容は正しく、「法律」に従うことも正しいという前提で社会は動いているわけです。


しかし、時には「正義」を為すために、やむなくルールを破らねばならなかった事象も散見されます。

今から123年前の12月10日、東京・日比谷公園の西幸門交差点で老人が道路に飛び出した“事件”は、文字通り日本中に衝撃を与えました。

西幸門
(写真は先月下旬の日比谷公園。木々が色づき始めていました)

世にいう田中正造の「天皇直訴事件」です。

歴史の教科書に必ずと言っていいほど掲載されていますのでご存じの方も多いでしょう。

これは足尾銅山の鉱毒事件の解決のために尽力していた田中正造が、正攻法ではもはや解決の道筋はないと悟り、衆議院議員を辞した直後に明治天皇に公害解決を訴えた(直訴)という出来事でした。

普通は議会を通じて政府に解決を訴えるのが筋ではありますが、それでは時間が経つばかりで被害が広がることから、田中正造は敢えて型破りな行動を行ったのです。

言い換えるなら「法律」を守ることよりも、「正義」のための行動を選択したということですね。

事件後は東京市内のみならず、日本中が衝撃を受け、田中正造を称賛する声が多かったと言います。また、現代でも栃木県では郷土の偉人と称えられ、前述したように義務教育でその名を学ぶ機会は多いです。

ルール破りを安易に褒めそやすことは慎重であらねばなりませんが、結果的に彼の行動は「正義」だったと評価してもいいでしょう。

法律が機能しない、或いは法律自体が間違っている場合、「正義」を貫き通すために時にはルールを無視しなければならないという、そんな希少な例と言えます。


さて、「ルール」といえばシャドーハウスにおいても作中で頻出していますね。

例えば生き人形の「余計なことは考えない」はその代表でしょうか。確か第19話でショーンがエミリコに教えていました。

また、第47話では「シャドーの教え」という分厚い本が描かれています。第113話にて、ケイトはその本に記載された館のルールに衝撃を受け「歪んだ世界」と断じていました。一般的な常識では到底考えられないような決まり事がシャドーハウスでは当たり前とされ、それを守ることこそが正しいとされているのです。


ケイトはそんな「嘘で塗り固められた館」を倒すため、そして彼女の正義のためにエミリコと共に闘い続けてきました。その過程で彼女には今、多くの仲間がいます。

今回のエピソードでも、シャドーハウスの支配から脱するため「ルール」を破る決意を固めた一対が登場しました。

「正しさばかりを求める」と指摘されたあの主従が、本当の正しさのために今立ち上がります!続きを読む

第207話 一堂に会して【感想】

先週発売のヤングジャンプは大きな注目を集めました。

大ヒット作【推しの子】が最終回を迎えたからです。

【推しの子】と言えば、昨年のアニメ化では社会現象級の旋風を巻き起こしていました。

特にyoasobi氏の手掛けた「アイドル」はアニメに関心のない層にも浸透し、CMなどで耳にすることも多かったです。アニメの大成功により、【推しの子】は一躍日本を代表する連載漫画へと駆け上がっていきました。


ただ、正確に言うと【推しの子】は連載当初から注目の的でした。

人気漫画家の赤坂アカ先生と横槍メンゴ先生がタッグを組むという話題性、これまでになかった物語設定、多くの魅力的なキャラクター達、そしてサスペンスやラブストーリーを織り交ぜたエピソード……

こういった多くの要素を含んだ【推しの子】は瞬く間に多くの読者を惹きつけ、2021年の「次にくるマンガ大賞」ではグランプリを獲得しています。

【推しの子】は「容姿やコネクションを生まれた時から持ち合わせていたら」「この芸能界(セカイ)へのチケットが初めからその手にあったなら」というナレーションから物語が始まりますが、大人気作家同士のタッグと世界的出版社の手によって生まれた【推しの子】は、まさしく誕生と同時に大ヒットが約束されていたと言っても過言ではなかったでしょう。

一つの作品をここまで大きなコンテンツへと育て上げた作者のお二人、そして多くの関係者の並大抵ならぬ努力に思い馳せ、まずは無事にフィナーレを迎えたことに安堵するとともに、お疲れ様でしたという言葉をお送りしたいと思います。


ところで、【推しの子】が連載を開始したのは2020年春ですが、実は掲載号のヤングジャンプ本誌持ってます!

ということで自慢ですが写真をどうぞ!
推しの子

巻頭カラーで輝くルビーとアイ。

もうこれだけでオーラが漂っていますね。こんなにも光が放たれた作品がヒットしないわけがありません。改めて読み返してみて、当時感じたワクワク感が思い出されました。


さて、なぜ私がこの本誌を購入していたかと言いますと、【推しの子】が大ヒットするということが分かっていたからではありません。理由はシャドーハウスの第62話が掲載されていたからです。

煽り文を見たことない方もいらっしゃると思いますので、どうぞこちらもご覧下さい。
62話

察しの方もおいででしょう。第62話と言えばエミリコとショーンの『屋根上デート回』です。あの煌めく見開きページの夜空を見て、これは本誌を買わねば後悔すると感じて購入しました。

それが今になってブログのネタになっているのですから何がどう転がるか分かりませんね。まあ、最近は巻頭カラーとかでない限り中々本誌買えてないですが。部屋掃除しなきゃ……


思い返せばこの頃のケイトは味方が少なく、パトリックやルイーズでさえまだ攻略できていませんでした。それこそ前話の第61話で「同期の絆」がやっと生まれたばかりです。お披露目から間もないケイトの前には険しい道が続いていました。

しかし。

ネタバレになりますので詳しく触れませんが、それが今話では様変わりしました。

第61話でようやく同期の心が開き、第62話でエミリコとショーンがたった二人で希望を胸に決意固めた時には想像もできなかった「絆」が、まさに今、ケイトを頼もしく囲んでいるのです。その中心に凛と佇む姿は「麗しの薔薇」そのものです。遂に、遂にここまで来ました。


ですが、覚えている方も多いでしょう。

煌めく夜空にときめいた第62話のラストが、漆黒の暗闇だったことを。

それは当時の救護班班長・スザンナの姿でした。一対で深夜のこどもたちの棟を歩く彼女達の姿は、それまでのエピソードを忘れてしまうくらい不気味なものでした。


そして今回。

希望に満ち溢れたエピソードを不穏な空気で締めくくったのは、またしても救護班長でした。

エヴリンの冷たい声が秘密基地に響きます。



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第206話 葛藤【感想】

先々週、日本漫画史が大きく動きました。

今年度の文化勲章受章者に、ちばてつや氏が漫画家として初めて選ばれたのです。

漫画文化は昭和から平成にかけて発展を遂げてきましたが、かつては「漫画害悪論」とでも呼ぶべき偏見によって、芸術として認められない時期も多くありました。

それ故、娯楽として評価された後でさえも「文化」「芸術」とみなされず、市民権を得た今もなお、他の芸術分野と比較して軽く扱われるケースもしばしば見受けられます。

しかしながら、これまでの長い歴史の中で、表現技術を確立し大きな評価を受けた漫画家は数多くいました。


昭和の漫画家達に大きな影響を与えた田河水泡、漫画の神様・手塚治虫、「天才」藤子・F・不二雄、漫画の帝王・石ノ森章太郎、ギャグ漫画の王様・赤塚不二夫、アシスタント制度の先駆者・さいとうたかを、永遠のヒーローの生みの親・やなせたかし、妖怪と人間の架け橋・水木しげる、世界のレジェンド・鳥山明…………


このほかにも、社会や世界に大きく貢献した漫画家はいくらでもいます。しかしこれらの巨匠が、文化人にとって最大の栄誉である「文化勲章」を与えられることはありませんでした。我が国の文化の発展に大きく寄与したのは間違いないというのに、その功績が認められるまでに多大な時間を要したのです。

それだけに、此度のニュースは格別でした。

ちばてつや氏は文化勲章受賞について「全ての漫画家たちの創作活動に対してご評価をいただいたのだと、とても嬉しく、誇らしく思います」とコメントされていましたが、それは単なる謙遜ではなく、漫画という娯楽を「文化」と呼ばれる水準まで押し上げたこれまでの漫画家の姿を見てきたからこそでしょう。改めて、此度の出来事が画期的だったと感じますね。


さて、というわけで、ちばてつや氏の代表作「あしたのジョー」のモデルになった山谷に行ってまいりました!

泪橋

あしたのジョー

恥ずかしながら「あしたのジョー」を読んだことがないのですが、そんな私でも主人公の名前や、ジョーが真っ白に燃え尽きたシーンくらいは知っています。むしろ日本人のほとんどが知っていると言っても過言ではないでしょう。

南千住からほど近い山谷は、現在では綺麗に整備され普通の下町といった風情ですが、それでも所々に古い簡易宿泊所や銭湯などが見受けられました。「ドヤ街」と言われていた頃の名残は僅かでも、「泪橋」の交差点やジョーの像がこれからも、高度経済成長期という時代を語り継いでいくのだろうと思いました。


ところで「あしたのジョー」といえばボクシング漫画ですが、シャドーハウスにもパンチを得意技とするシャドーがいます。

言わずもがな、ジョンのことです。

彼が通称(?)「ジョンパンチ」を披露したことは何回もありますが、第51話ではすす能力ではなくただの殴り合いをするなど、実に個性的なシャドーです。そういえば当時のニコニコ静画では「あしたのジョン」なんていうコメントもありました。拳で語る熱き漢、それこそがジョンです。


今回のエピソードでは、暫く見せ場の少なかったジョンが元気な姿を見せてくれました。

しかし、こどもたちの棟に復帰したジョンが目にしたのは、「勲章」によって正気を失いつつあるこどもたちの姿でした。



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第205話 没落【感想】

こちらの絵は「1814年、フランス戦役」という作品です。19世紀の画家、エルネスト・メソエニの代表作としてパリのオルセー美術館に展示されています。ナポレオン

ところで、こちらの絵の中に有名な人物が描かれているのがお分かりになりますでしょうか?

絵画に詳しい方ならすぐに分かるかも知れませんね。或いは、そうでなくとも題名で察した方もいらっしゃるかも知れません。


先頭に立つ白馬に跨る人物。彼こそがかの有名な、ナポレオン・ボナパルトです。


歴史に興味ない方も名前は聞いたことがあるかと存じます。それくらいに現代に与えた影響は大きく、今現在の社会システムの根幹を形作った、またはそのきっかけになったと言っても過言ではない功績を残しました。その詳細は割愛しますが、改めて説明するまでもない程に彼は今でも英雄視されています。


しかし、ナポレオンの生涯は輝かしいものばかりではありませんでした。いや、むしろその栄華と凋落の落差は凄まじいです。

それは先ほどご紹介した絵画にも表れています。なぜならこの絵は、彼が英雄から転落するきっかけとなった1914年のプロイセンとの戦いに赴く様子が描かれているからです。

皆様はナポレオンといいますと、思い浮かべるのは白馬に跨って片手を掲げるあの有名な絵かと思います。「サン=ベルナール峠を越えるボナパルト」(Wikipedia)と名付けられたこの作品は、彼が栄光へと進んでいく始まりを象徴する絵画として広く知られています。

反面、上の「1814年、フランス戦役」はそういった勇ましさとは無縁の寒々しい構図となっています。

この戦いに敗れたナポレオンは失脚し、一時的に復権を果たしたものの間もなくワーテルローの戦いで完敗、南大西洋の孤島・セントヘレナ島に幽閉され病死しました。

享年51歳。フランス皇帝として欧州の覇権を手にしてから17年後のことでした。


さて、現実世界において栄光と凋落の両方を味わった人物を紹介しましたが、今回のシャドーハウスでも権力のある地位から一転、「島流し」とでも言うべき罰を与えられたキャラクターが描かれました。

第205話「没落」

こどもたちの棟を翻弄した末路は、実に惨めなものでした。
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